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「GG・BB休」に「カエルデー」。遊び心あふれる施策で、地方中小企業の働き方改革を実現

フクヤ建設株式会社

【取り組み概要】
さまざまな遊び心のある働き方改革を、各部署が自律的に考えて実施する取り組み

​①有休取得推進:「上の人が休んでいないから」という理由で有休取得が進まない職場で孫休暇「GG休・BB休」を実施
​②残業削減:残業時間の多い設計の部署で全員で定時に退社する「カエルデー」、営業では目標時間に退社する「カエリマンデー」を設定​

全社の有休取得日数が2倍に。(約5日→約10日)「有休なんて無理」と言っていた社員が今ではお孫さんのサッカー送迎のために時間休も使いこなし、「毎週火曜はGG休」を取得。営業チームの残業時間は月平均約10時間削減

【受賞ポイント】
●孫休暇「GG・BB休」や「カエルデー」「カエリマンデー」など、遊び心溢れる施策を多面的に展開

●思わず話題にしたくなる、利用したくなる創意工夫が凝らされた働き方改革

十分な成果と、働くことを楽しむ企業文化の醸成を実現し、多くの企業のロールモデルとなる

「これまでの頑張りを否定するのか」——改革への反発を超えて


人材不足が深刻な建設業界では、長年にわたり長時間労働などの働き方に関する問題が指摘されてきた。人材確保が特に難しい地方の中小企業では、こうした職場環境を当たり前ととらえ、抜本的な改革に踏み出せないケースも多いのではないだろうか。フクヤ建設株式会社(高知市)では、従来の常識を見直し、「GG・BB休」や「カエルデー」「カエリマンデー」などのユニークな施策によって働き方改革を実現している。変化の波が広がっていった同社のストーリーを紹介したい。


働きやすい環境を整えなければ、人材確保は不可能

フクヤ建設の働き方改革を最初に提言し、推進した平岡美香さん(業務推進事業部 人事課)は、2017年の入社時点で職場環境に違和感を持っていたと振り返る。

「当時は従業員数20名程度の地方の建設会社で、業務量が多く、残業が当たり前の環境でした。有給取得もままならず、社員に疲弊感が漂っていました。家庭の事情や個人の事情を抱えている社員もいますが、我慢や無理をして働いているという状態だったんです。私は、もっとみんながイキイキと自分らしく働ける環境を作りたいと思い、まずは高知県のワークバランス実践支援事業に参加することで社外の視点を取り入れることにしました」(平岡さん)

取り組みを推進した平岡さん

働き方改革を推進するにあたり、社内からは強い反発もあったという。

「働き方改革というと、『仕事を放り出して早く帰る』というイメージを持つ社員が多かったんです。長年会社のために働いてきたベテラン層からは『会社のために長時間働いてきたのに、それを否定するのか』という反応もありました」(平岡さん)

さらに、残業代を収入の一部と考えている社員もいて、単に時間を短縮するだけではモチベーションの低下につながる可能性もあったという。それでも平岡さんは「働きやすい環境を整えなければ、人材確保は不可能」という強い危機感を抱いていた。

「建設業はただでさえ人材不足で、若手の確保が難しい状況にあります。だからこそ、誰もが働きやすい職場を作ることで会社の魅力を高めていかなければならないと思っていました」(平岡さん)。

こうした平岡さんの課題意識に社長も心を動かされ、フクヤ建設は独自の施策を導入していった。


GG・BB休でベテラン社員の意識が変わる

フクヤ建設の働き方改革の象徴ともいえる施策が「GG・BB休」。GGは「グレートじいさん」、BBは「ビューティフルばあさん」の略称だ。

「GG・BB休は、ベテラン社員たちが孫のために使える有給休暇として設定しました。ベテラン社員の有給取得率が特に低いことを問題視していたことが背景にあります。長く働くのが当たり前と考えている方も多く、当初は『有給を取るなんて考えられない』という反応でした。でも、お孫さんのことになると、ころっと反応が変わるんですよね。『孫のためなら』と有給取得に興味を示してくれました」(平岡さん)。

GG・BB休を活用するベテラン社員の川﨑弘之さんは、まさに「有給なんて取るものじゃない」と考えていたという。

「ここ数年、世の中では残業削減や有給取得推進の動きが盛んですが、自分には関係のないことだと思っていました。でも『GG休を使えるから試しに休んでみて』と言われ、孫のサッカースクールへの送迎のためにとりあえず取得したんです」(川﨑さん)

その結果、家族から孫の世話で頼られるようになったという川﨑さん。家族との交流が増えたり、孫が頑張っている姿を近くで見たりして、「家族のためにもまだまだ仕事を頑張ろうと思うようになった」と話す。

「以前は、休んでしまうと仕事に影響が出るので、働いていた方が楽だと思っていたんですよ。でも実際にGG休や時間休、半休などを利用してみて、仕事への影響もほとんどないことに気づきました。今は昔とは違い、業務を効率的に進めるためのツールも整っていますから」(川崎さん)。

GG休を利用してお孫さんと過ごす様子

フクヤ建設では残業削減への取り組みも進む。残業の多い部門では「カエルデー」、顧客都合で遅くなってしまうことも多い営業部門では「カエリマンデー」を導入し、部署ごとに目標退社時間を設けることで、業務効率化を促進しているのだ。

三角コーンを置いて残業削減を呼びかける

「最初は、『こんなことをして意味があるのか』という声もありましたが、続けていくうちに業務の段取りが改善したり、早く帰るという意識が向上したりして、無駄な残業が減るようになりました」(平岡さん)

単に退社時間が早まっただけではない。カエルデー・カエリマンデーによって、社内風土そのものも変化したという。

社内では「カエルデーを導入してからチーム内での声がけが増え、互いの業務状況を確認し、配慮し合えるようになった」という声が聞こえるようになった。

また、ノー残業デーを意識することで業務効率化が進み、「メリハリを付けて仕事ができるのでプライベートの時間も充実するようになった」という声も上がっている。


「この会社なら長く働き続けたい」と思ってもらえるように

フクヤ建設では上記以外にも、多種多様な施策を展開している。こうした取り組みを支えているのが、各部署の代表者によって構成される「ワークライフバランス推進委員会」だ。委員会では施策運用や課題について共有し、「有給取得が進まない」「ノー残業デーに反発がある」などの声が上がれば、具体的な対策を検討して改善を進めている。この場所に集まるメンバーは、どんな思いで参加しているのだろうか。


委員会メンバーの連携で粘り強く取り組みが進む

ワークライフバランス推進委員会メンバーの西村さん(業務推進部)は、「以前は他部署との連携がうまくいかず、残業を増やす原因になってしまっていた」と振り返る。長時間労働が続いていたり、有給取得が進まなかったりすることの背景には、コミュニケーションの問題があったのだという。

小松さん(戸建事業部 営業企画課 営業補佐)は「個人単位で有給を取得したいと思ってはいても、営業系部署ということもあって実行が難しい。その中でワークライフバランス推進委員会からメッセージを届けることに意義があると感じた」と話す。

会社が、営業メンバーにタブレット端末を配布して資料の確認や共有ができるようになったことをきっかけに、ペーパーレス化の取り組みも進めてきた。「これによって作業効率が改善し、以前はまったく有給を取得していなかった人も休めるようになった」と小松さんは手応えを語る。

大津さん(戸建事業部 設計)の所属部署では、毎月の休暇取得スケジュールを見える化して「最低月1回は有給を取ろう」といった声がけを行っている。そのため若手も遠慮なく休めるようになったが、「こうしたナレッジを他部署で取り入れてもうまくいくとは限らない」と大津さんは指摘する。
現場に働き方改革の取り組みを提案し、反発された際に、その乗り越え方を一緒に考えていくのもワークライフバランス推進委員会の重要な役割なのだという。

田中さん(リノベーション部 設計)は以前、所属部署でノー残業デーを提案し、拒否されてしまったことがあるという。それでもワークライフバランス推進委員会で「1回言ってダメでも、ダメな理由を聞いて対策してからもう1回チャレンジしよう」と話し合い、取り組みを浸透させていった。

ワークライフバランス推進委員会のみなさん

ワークライフバランス推進委員会の参加メンバーはそれぞれ本業を抱えているが、並行して活動を進める中で負担を感じる部分はないのだろうか。

「本来業務が多忙なときには、委員会の打ち合わせに出られないこともあります。そうした都合も気楽に相談でき、互いにフォローし合えるので助かっています」(大津さん)

「ワークライフバランス推進委員会の業務も、改善をどんどん進めてきました。スプレッドシートを使ってタスクやスケジュールを共有し、メンバー間での情報共有がスムーズに進むようにしています。この委員会で実行していることも、全社の業務改善のヒントになっていますね」(西村さん)


遊び心あふれる施策がもたらす効果とは?

フクヤ建設では今後も働き方改革を進め、持続可能な成長を目指していく計画だという。その先には業界のイメージそのものを変えることを見据えている。

「『この会社なら長く働き続けたい』と思ってもらえるような職場環境を作ることが、今の私たちの目標です。仲間が増えていけば、それだけ新しい課題に気づく機会も増えるはず。新しい世代のアイデアを取り入れながら、より柔軟で多様な働き方を実現していきたいですね」(平岡さん)

平岡さんたちが当初経験したように、「働き方改革」という言葉にネガティブなイメージを持つ人も少なくないのかもしれない。だからこそ、遊び心あふれる施策を多面的に展開するフクヤ建設のあり方には学ぶところが多いと感じる。

「GG・BB休」や「カエルデー」「カエリマンデー」などのネーミングは、思わず話題にしたくなり、一度聞いたら忘れなくなるインパクトを持っている。現場で働く人たちにとっても、「この制度なら利用してみよう」と思える仕立てになっているのではないだろうか。働き方改革の施策というだけでなく、働くことを楽しむ企業文化の醸成にもつながっているのかもしれない。

建設業界における働き方改革のモデルケースとして、そして地方中小企業の先進的な経営モデルケースとして、フクヤ建設の取り組みはさらに注目を集めていくはずだ。


WRITING:多田慎介
※本ページの情報は全て表彰式当時の情報となります

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