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アルバムを利く 〜その12

PARLIAMENT
「Mothership connection」1975年 (前編)



A1:P-FUNK(wants to get funked up)


生ピアノとシンセサイザーが描き出す夜の雰囲気の中、アルバムはしずしずと始まる。夜空には星と、それから遠く遥かに銀河が見える。
カーラジオが今まで聞いたことのない奇妙な音楽を奏で始める。慌ててチャンネルを変えようとするとおもむろにいつものDJとは違う声がいる。
「チャンネルはそのままで。これは故障ではありませんから」
それから謎の男はこれから特別なショーを放送する、と宣言する。どうやらラジオ局はこの謎の男に電波を乗っ取られたらしい。後に「ファンケンシュタイン博士」と呼ばれることになるこの男に、しかし今はその呼び名はない。自らを「ロン毛のオチャラケ男」と名乗った彼は宇宙の星の彼方からやって来たという。
宇宙人!?
それから彼は「オレたちのモットーは」と言って、突然それに応えるように大合唱が始まる。
「うちらのファンクを純生に
 ファンク・アップしたいのさ」

この冒頭、何度聞いても素晴らしくてため息が出る。前作「チョコレート・シティ」くらいからワサワサしたストリートっぽいかけ声を使いだしたパーラメントだが、ここで聞こえるのはバリトンパートまであるぴしっと揃った伝統的コーラス。このコーラスの使い分けがパーラメントというグループが同時期のファンクバンドより頭ひとつ抜け出ていた理由の一因だと思う。
ジョージ・クリントン演じるファンケンシュタイン博士の語りのパートの「静」とコーラスパートの「動」の対比が鮮やかなこの楽曲、しかしぼくは強烈なゴスペル臭を感じる。ジョージクリントンが牧師、その説法に応えるコーラスが教会の聖歌隊なのだ。そう思えば2番目のジョージの語りにある「ラジオを当てたら悪い部分が癒される」という話も手かざしで数々の病人を治したキリストの故事を思い起こさせる。
この「教会ノリ」はこの「マザーシップ・コネクション」というアルバムを理解する鍵だとぼくは思う。
それからタイトルについて。グループの総称となるPファンクという言葉はこの楽曲で初めて登場する。諸説あるこの言葉の意味はぼくはやはりpure funk(純粋ファンク)なんだと思う。「うちらのファンクを純生に」という訴えは、デビッドボウイ(「フェイム」がブラックチャートを駆け上がっていた時期だ)のような似非ソウルばっかり流すラジオ局を乗っ取るというこの曲の設定ともよく合致する。
もちろんそれだけではない。一般に言われているようにこれは「Parliament-FUNKadelic」というコンセプトの違う(けれど実質的には同じ)ふたつのグループを総称する名前でもあるのだろう。この曲じたいにはファンカデリック的なハードなロックフィールはない。しかしパーラメントとファンカデリックのリスナーを統合する試みはこの少しあとに発表されたライブ「P-FUNK earth tour」で見事に結実する。戯言師ジョージクリントンの言葉はいつだって重層的なのだ。

A2 :mothership connection(star child)


ラジオ局の電波をジャックして自分たちの曲を流すというコンセプトは次の曲でも継続している。今度は「スターチャイルド」なる一団が登場する。ホーンが奏でるわくわくするようなリフ。スターチャイルドが歌い出す。
「騒がしい音聞こえたら
 それはオイラと野郎ども
 がつんと
 バンドをがつんと言わしてくれ」
今度は整ったソウルコーラスではなくてがやがやしたストリートっぽいお囃子。このあたりな適宜な使い分けがアルバムの立体感と色彩感を豊かにしている。
中盤でそのコーラスパートをソロシンガーが歌い繋いでいくくだりなんかも「オイラと野郎ども」感満載で実にたのしい。
そして当時は最先端の機材だったアナログシンセサイザーのフレーズが神秘的かつ宇宙的な雰囲気を醸し出し、その中をいよいよ!宇宙船(mothership)が降りてくる。しかしコーラス隊が歌うのは「swing down,sweet chaliot」という古い黒人霊歌。このあたりがこのアルバムでのジョージクリントンの仕掛けの天才的なところ。
若者を引き込むために当時流行っていたアフロフィーチャリズム(人類の文明は太古に宇宙人がアフリカ大陸に伝えたもので黒人はその正統な継承者である、というような思想)やSF映画の思想を取り入れながら、同時にアフロアメリカンにとっては昔懐かしい黒人教会の風景を描く。いわばこれは1975年当時の最先端にアップデートされた礼拝儀式。ジョージクリントンはこのアルバムで人々がパーティで踊り狂うことと神への祈りが等価になることを示したのだ。ではその祈りはどこに繋がっていくのか?それがこのアルバムを貫くテーマである。
冒頭、「ピラミッドを取り戻す」という言葉に注目。これがアルバムのラストに繋がるキーワードになる。

A3:unfunky UFO


スライ&ファミリーストーンの「サンキュー」にちょっと似たリフで始まるこの曲。「ファンキーじゃないUFO」の出現はこれ以降のアルバムで展開される踊らないサーノーズ・ドュヴォイドファンクとスターチャイルドとの闘いを暗示する、とCDの解説には書いている。しかしサーノーズはまだいない。この時点ではその存在もまだ構想されてはいなかったんじゃないかと思う。この曲をサーノーズの曲だと思って聞くとちょっと意味がわからなくなると思う。歌詞ではそんなこと言っていないからだ。
ここで描かれる「ファンキーじゃないUFO」は前曲で地上に降り立った宇宙船のことだとぼくは思うのだ。この宇宙船のエネルギー源はファンク。時空のかなた太古の時代からやって来た宇宙船のファンクは時代遅れになってエネルギーが低下し飛び立てないのだ。だから宇宙船は言う。「あんたのファンクをくれたら気持ちよくしてやるよ」
つまりこの「マザーシップ・コネクション」というアルバムは地上に降り立ったUFOが地球のミュージシャンと観客に最新式ファンクを要求するストーリーなのだ。「ファンキーじゃないUFO」はファンクを否定していない。むしろファンキーになるために私たち(このアルバムを聴いているわたしたちだ)にファンクを要求しているのだ。
ここにも「教会ノリ」がある。UFOからの不意打ちで稲妻を喰らうこの歌の主人公にはキリスト教の聖人パウロの姿が重なる。もとはサウロという名だった彼ははじめはキリスト教の迫害者だった。ある日神から雷を打たれた彼は失明し神からの声を聞く。神の奇跡により再び光を取り戻したサウロはパウロと改名しキリスト者となって初期の教会制度設立に尽力したというのだ。
日本人には何やら小難しい話に聞こえるかもしれないけど、当時なアメリカ黒人にとってはそうではない。幼いころから日曜ごとに教会に通っていた彼らはたとえ学校の落第生やヤクザ者であってもこれがパウロの話だとごく自然に理解したはずなのだ。
そして歌詞で言及されずとも歌の主人公がファンクの福音伝道者になることは自明のことなのだ。

〈前編おわり〉次回、後編(レコードB面)に続きます。乞うご期待!
https://note.com/good_zinnia692/n/n8f4c7176c8e5?sub_rt=share_b

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