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ごぼうを掘る

不耕起栽培ごぼう


妻がスコップを手渡して「ごぼうを掘ってきて」と言った。今年から始めた野菜セットの品目に加えたいという。
このごぼうは栽培してない。こぼれた種が畑の脇の崖の下で芽を出して増えた。うちの農園はトラクターも肥料も使うふつうの農法だけど(農薬と化学肥料は使わない)このごぼうは不耕起無肥料栽培と言ってもいいかもしれない。栽培してないけれど。

ごぼうの由来


ごぼうはユーラシア大陸生まれのキク科の多年草。ユーラシア大陸というとヨーロッパから中国までを含む広い地域。漢方では「牛蒡子」と呼び種を薬として用いる。
日本には薬草として中国から渡来したという。しかし世界の中でごぼうの根を野菜として食べるのは日本(と大日本帝国時代に植民地だった地域)だけらしい。

原種の起源地と野菜の原産地


野菜は始めから野菜だったわけではない。人間が野草の中から毒のない(あるいは弱い)もの、栽培しやすいもの、食べて美味しいものを選んで育て、種とりをしながら野菜という植物を作ったのだ。
だから野菜の元になった原種の野草が生まれた起源地と、その野菜が生まれた原産地は同じとは限らない。元になった野草が生息地を広げる中で人間と出会い、そこで野菜になるというケースが多いのだ。原種の起源地と野菜の原産地を知ると、その野菜がいちばん得意な本来の風土と気候を知ることができる。野菜の来歴を知ることは野菜の栽培方法を知ることに等しい。

当たり前のめずらしい野菜


ごぼうは薬草として渡来し日本人の手によって根菜としてのごぼうとなった。いま日本で食べられている野菜のほとんどは外国で生まれたもの。好き嫌いは別として日本に生まれてごぼうを食べたことのない人はいないと思う。それくらい当たり前の野菜だけど実はごぼうは日本で生まれた数少ない(もしかしたら唯一の)野菜なのだ。

ごぼうを掘る



スコップ一本で汗だくになりながらごぼうを掘り上げ、自宅に持ち帰り80歳の老母に見せた。スーパーで売っているものと違い、掘り上げたごぼうには茎がついている。
「まあ!」
母はそう言って口をぱかりと開けた。東京生まれの母はごぼうの茎も葉も見たことなんてないのだ。ぼくだってそうだ。田舎暮らしを始めるまでごぼうがどんな植物かなんて知らなかった。
その日は妻が甘辛く炊いてくれて、翌日はぼくがささがきにしてカシワと炊いて家族みんなで食べた。
「香りがいいねえ」
と母が言った。
なかなか骨が折れる作業だけどごぼう掘れるのはありがたいし、それを家族と食べるのもありがたい。

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