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真空ジェシカ/お笑い(漫才・大喜利・ラジオ)

 テレビ番組に出演すれば、大概すべっただの、炎上だのと言われる。M-1グランプリの決勝進出者発表の記者会見では周りを困惑させるボケをして、所属事務所の社長から怒られる。ネタ動画をYouTubeではなく、海外のポルノサイトで公開する。そんな素行にもかかわらず、お笑いファン、特に東京のライブシーンを追っている層から、面白さへ絶大な信頼感を持たれているのが、真空ジェシカだ。

 真空ジェシカは、川北茂澄とガクが2012年に結成した人力舎所属のお笑いコンビである。M-1決勝に2年連続で進出するなど、漫才の面白さには定評があるが、特にライブシーンでの彼らの暴れっぷりはすごい。ライブならではの自由度を生かし、他の出演者のパロディや、テレビではアウトな下ネタで、観客を腹から笑わせる。また、真空ジェシカがいれば、どんな企画でも面白くなる予感がある。企画の前提を壊すような、めちゃくちゃなことを彼らがやってくれるのではないかという期待感があるのだ。そんなことができるのも、真空ジェシカが芸人として確かな実力を持っているからで、その一端が垣間見えるのが大喜利の強さだ。

 大喜利といえば、笑点の後半に落語家がざぶとんをかけて行うもの、というイメージがあるかもしれないが、要は与えられたお題に対して、いかに面白い回答ができるかを競うゲームである。最近は、若手芸人が出演する大喜利イベントが数多く行われ、それがYouTubeでも配信され数十万再生を稼いでいる。真空ジェシカも大喜利イベントによく出演しており、川北とガク、二人ともに、大喜利の面白さ・強さには定評がある。

 特に川北の大喜利の強さは若手芸人の中でも抜きんでている。例えば、大喜利イベント「大喜る人たち」における「ファミマの店員 vs ノブ、どんな勝負?」では、川北は他の出演者の回答に自分の回答を被せることで笑いを増幅しつつ、後半に流れを変える鮮やかな回答で一気に笑いをかっさらう。回答の速さ、質の高さ、いずれも川北は若手芸人の中でトップクラスだが、何より、他の誰も思いつかない角度からの回答を出せるという点に川北の凄みがある。

 大喜利の一つのお題に対して、参加者は様々な切り口で回答していくが、切り口が出尽くし、参加者の回答も次第に一つのボケやすい形に収束していくような時間がある。そんな時に、川北は他の誰も思いつかない、そんなボケ方があったのかと思えるような回答をする。それは時には、お題自体を破壊するようなある種の悪ふざけにも映るが、十分な助走があればそれも笑いに変えられるのだ。チャンスの時間の「Breaking ヤンチャオーディション」における大喜利での、一連の流れからの川北の「上手い蛇」の回答は、全く予想外の所から殴られたような衝撃を与えてくる。

 真空ジェシカの漫才も、大喜利で見られる発想力を存分に生かしていて面白い。だが現在、真空ジェシカのYouTube公式チャンネルでは漫才動画を一本も公開しておらず、ポルノサイトのxvideoだけで公開している(なので気になる人は自己責任で検索してほしい)。ネタ動画をポルノサイトで公開してしまうのも、彼らが(とくにネタを作る川北が)とにかく面白いことをしたい、笑わせたいということだけを考えているからである。その感性の一端は「読んで楽しむ漫才・真空ジェシカ」や、「単独ライブRTA Any%(バグ有り)【解説付き】」(ゲームの最速攻略を目指す競技であるRTAを、単独ライブで行ったもの)などで見ることができる。

 また、内輪ネタの嵐だが、彼らのラジオ、「真空ジェシカのラジオ父ちゃん」も面白い。ラジオでも人間的な魅力やエモーショナルな展開などで勝負するのではなく、あくまで面白だけでやっているので、とにかく余計な人間味などは感じず、ただただ彼らの発想の面白さだけを浴びることができる
(おすすめ回は「#25 ガクギレ」)。

この記事は以下の特集の一部です。
【Good Vibration Magazine 】⇒   特集:遠い世界へ

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