レター - 子どもの写真カレンダー
あるスタートアップに関わっていた時のことです。
そのスタートアップは、アプリと紙の両方に関わる事業を行おうとしていたのですが、事業を行うにあたって参考になりそうなアプリをリストアップし、その内いくつかについてリサーチを行うことになりました。
リサーチといっても、アプリそのものについてのリサーチではありません。実際にアプリを使っている人たちの話を聞くということでもありません。
そのアプリのユーザー層にあたる人たちに実際に会ってみて、話を聞いてみるというリサーチです。
そのリサーチ対象の中に、「レター」というアプリがありました。
親世代が子どもの写真を使って、孫の写真入りカレンダーをご両親に送ることが出来るサービスです。
「孫のかお」は社会的通貨。
たとえば、あなたが結婚していて、お子さんもいるとしましょう。そして、ご両親からお米を毎月送ってもらっているとします。
すると、あなたは何かでお返しをしなければならないような気がしてきます。(ほぼ100%の確率で。)
あなたは、孫の顔を見せれば喜んでくれるだろうと思い、出来るだけ毎週、隣町に済むご両親のもとへお子さんを連れて行きます。
はい、これがインサイトです。
正確には、インサイトが行動に表れた瞬間です。
なんとなくは分かりますが、一体どういうインサイトなのでしょうか。
ヒアリング結果を分析してみると、彼らはこう思っていました。
「喜んでくれたり、ちゃんと感謝が伝わるようなお礼をしたい」
彼らは、喜ばれたい、感謝を表したいといった、ポジティブで利他的な気持ちを持っています。
これは、祖父母世代に限らず、身近な人たちに対しては共通のインサイトです。
「お礼はしたいけど、お金でお返しするのは気持ち悪い。何かいやらしい感じがする」
ただし、お金でお返しを感じるするのは遠慮したいようでした。とても共感できますね。
(ちなみにこの話をアメリカ人のUXデザイナーに話したところ、共感されませんでした。日本人特有の感覚なのかもしれません。)
「子ども(孫)の顔を見ると喜んでくれるはず」
そうして思い悩んだ末に彼らがほぼ必ず思い至るちょうどいいものが「孫のかお」なのです。
つまり、いくつかのインサイトが重なった結果、彼らは祖父母世代との間にちょうどいい社会的通貨を求めていて、お子さんの写真がそれに当たります。
「孫のかお」が社会的通貨になっているなんて、面白いですよね。
毎日幸せを感じること
カレンダーだからこそ与えることが出来ている体験もあります。
それを説明する前に、祖父母世代のインサイトのお話をしておきましょう。
あなたが祖父母世代になりきるのはもしかしたら難しいかもしれませんが、あなたには孫がいて、たまに家に遊びに来てくれるとしましょう。
あなた(もしくは配偶者)は、昔買った少し古いコンデジを押入れから引っ張り出して、孫が来る日に備えます。
そしてひとたび遊びに来ると、どこに行くにもカメラを持っていき、何かあるごとに、いや、何が無くとも孫の写真を撮ります。
日が暮れると、疲れ果てて眠る孫は、両親の車に載せられ帰っていってしまうでしょう。あなたはそれを少し寂しく見送ります。
そしてその夕方から夜にかけて、慣れないパソコンを使ってあらかじめ買っておいた写真紙に写真を印刷し、その内いくつかをアルバムにしまい、いくつかを玄関と居間とキッチンに飾ります。
はい。
彼らのインサイトは何だと言えそうでしょうか?
彼らはこう思っていました。
「孫のかおを見ると幸せを感じる。毎日見ていたい」
ヒアリングしたのは毎日送り迎えする層・たまにしか会えない層の両方でしたが、この点はほとんど同じ結果になりました。
孫に関して祖父母世代が徒労感や倦怠感を感じることは少ないようで、例外はごく一部です。
(口頭では面倒臭そうな反応を示す方もいましたが、インサイトはその反対のようです。)
「家事の最中や外出時など、ふとした瞬間にも幸せを感じたい」
既にリタイアした層は、家にいる時間や何もしていない時間を多く持っています。
その時間にちょっとした幸せを見出すことに、彼らは少々積極的です。QOLへの関心が高いということですね。
この欲求は遊んだり旅行に行ったりすることでも満たされますが、もっとコストが低い場面でも満たされたいと願っています。
キッチンに写真を飾るのはそのあらわれです。
「できるだけ色んな孫のかおが見たい」
孫が顔を見せてくれるのは多くても週に1回。あなたの知らないところで、あなたの知らない顔をしている孫のことが、あなたはとても気になります。
その点、親世代は毎日子どもに触れ合い、たくさんの写真を撮っているので、色々なシーンの、自然体な孫の写真をより多く持っているはずです。
彼らは、それを見てみたいのです。
「お孫さんの顔写真付きのカレンダー」は、これら3つのインサイトを満たしてくれます。
ユーザーがすることはとてもシンプル
簡単なジャーニーマップは次の通りです。
親
①アプリで子どもの写真と贈り先を入れる
②登録して決済
祖父母
①自宅のポストからカレンダーを取り出す
②カレンダーを見たり飾ったり
親世代も祖父母世代も、やることはたった2つだけです。なんてシンプルなんでしょうか。
アプリを触る必要があるのがスマホに慣れている親世代というのも美しい設計ですね。
まとめ
【刺さっているインサイト】
・親:感謝の気持ちを伝えたい
・祖父母:ふとした時にも幸せを感じたい
【解決している課題】
・親:お金でお礼をするのは気持ち悪い
・祖父母:色んな孫の顔をいつも見ていたい
【与えている価値】
・親:祖父母世代との間の社会的通貨
・祖父母:ふとしたときに目に入る孫の顔
【ソリューション】
・親:子どもの写真を送れるアプリ
・祖父母:孫の写真入りのカレンダー
───
先日、レターが今日のAppにも選ばれていましたね。
「レター」は、ましかく写真プリント「ALBUS」を運営されているROLLCAKEさんのプロダクトです。こちらも、お子さんがいらっしゃるご家庭ならばご存知の方がいらっしゃるかもしれませんね。
同社らしい柔らかくてインサイトをついたコンセプトで、とても優しい気持ちになるアプリでした。
アプリのストーリー(App Store)
👉 https://itunes.apple.com/jp/story/id1332971452