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コビットの不協和音(21)寂寞
高3の12月、コビットは保健室登校をしていた。
朝から授業が終わるまでずっと保健室で過ごした。
勉強をしたりぼんやりしたり。
たまに苦しくなってこっそり保健室で腕を切ってしまうことがあった。
先生は「できたら切る前に声かけてほしいな」と言いながらも手当をしてくれる。
特にコビットから先生に話したりはしなかったが、ときどきは紙に絵を描いたりしながら筆談での会話をした。
保健室の先生から、あまり勉強は無理しないように言われ、病院へも行くように言われていた。
冬休み前には、保健室の先生が母へ連絡を取り心療内科を受診した。
母は自傷行為をしていることに驚いていたが、コビットの元気がないのは気になっていたため受け入れてもらえた。
病院を受診したコビットには、睡眠薬と安定剤が処方された。
父はそれとなくコビットの状況を伝え聞き、母には文句を言っていた。
家の中でのことだから聞こえるのは当然なのだが、目の前で喋らなければ聞こえないと思っているのが馬鹿らしく思える。
冬は受験前だから登校が減る生徒もいたため、そこまで目立ってはないと同じクラスの友だちキホがメールで教えてくれた。
キホは国立大を受験するため毎日塾にも通い詰めていた。
あまり邪魔しないようにと思って、キホからメールが来たときだけ返事をしていた。
ユワはというと、学校は来たり来なかったりしていた。
進学はせずにバイトをして一人暮らしをすると意気込んでいる。
「あの家からは出て自由になるんだ」と言ってた。
お兄ちゃんとも最近あまり喋らなくなっているという。
ユワはあんなことがあったのに、コビットと比べてもとても強いと思う。
時折涙は見せるが、コビットなんてダメすぎてどうしようもない。
冬休みに薬も飲みぼんやりし続けたのもあってか、少しだが頭は回るようになった。
こういう状態ではあるが、コビットは卒業後どこにも所属しないことが不安だったため受験はすることにした。
「ダメもとで」と言いながらも、どこか受かりたい気持ちはあった。
何もしないのは余計にダメな人間に思えてしまい苦しかった。
ずっと親から、良い大学へ行って良い会社で働けと言われて育った。
それは呪縛のようにコビットの心に絡みついて離さない。
当初の良い大学ではないが、高卒よりは大卒でという親の思いも受けて決めた。
保健室登校を続けて、少し勉強をし腕を切ってぼんやりして、時々ユワと話して。
2週に1度は病院へ行くという、そんな日々を繰り返し受験の日を迎えた。
受験当日だけはテンションを上げて頑張って試験を受けた。
終わった後はまた自分を傷つけまくったが・・・
そして、
奇跡的にコビットは大学へ合格した。
高校入学時からしてみたらレベルの低い学校になってしまったが、所属先が決まってコビットは少しだけ安心した。
受験というプレッシャーからも解放され自傷の回数は少し減ってきた。
奨学金も4年間借りることができて家計にも負担はない。
卒業したら支払いは待っているが、4年後なら状況も変わるだろう。
ただ、死にたい気持ちが消えたわけでもなく自傷行為もまだしていたが・・・
卒業式の日。
コビットは風邪をひいて体調が悪かったため、式には参加しなかった。
それに、12月頃から教室へは行っていないし、人がたくさんいるところで卒業証書をもらうなんて嫌だったからラッキーだった。
式が終わる頃に学校へ来て、校長室で直接校長先生から卒業証書をもらった。
そこには母と保健室の先生、担任、オシヤ先生もいた。
校長先生とはちゃんと話したことはなかったが、コビットのことはよく知っているようだった。
やっぱり大人たちは裏でコソコソしているのだろうと思ったが、最後に校長先生はコビットにお守りをくれた。
「○○神社のお守りをあげよう。この先いろいろあるかもしれないけど自分らしく人生を歩んでください」
わざわざコビットのために行ったかどうかは分からないが、お守りをもらえたことは何か心に感じるものがあった。
「今までありがとうございました」
そう言って、コビットは母と高校をあとにした。
(22)へつづく
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