これって、“AIバブル”じゃないの? 「ITバブル」が教えてくれることとは?
この図は2000年前後のNasdaqのチャートで、「ITバブル」がふくらんで、はじけた様子です。1999年から大きく上昇し、2000年3月10日に5,048のピークをつけています。下げに転じてから3年ほど下がり続け、2003年初旬にボトムに達しています。
このバブルに対してFRBがどう対応したかですが、グリーンスパンが「根拠なき熱狂」と指摘したのが1996年12月で、その後にさらに大きく株価は上げています。すなわち、この警告はまったく効いていません。
FRBが政策金利(FFレート)を徐々に上げている途中で、株価はピークを付けています。また、株価がピークの半値になってから政策金利を下げています。このタイミングのズレを見ると、政策金利は株価にあまり影響を与えていないと言えるでしょう。
では、「ITバブル」が崩壊したきっかけは何でしょうか?
ピークを付けた2000年の株価を詳しく見てみましょう。青い線はNasdaqで、オレンジの線はITバブルの中心にいたCiscoの株価です。
この当時、マイクロソフトは反トラスト法(米 独占禁止法)違反で当局と争っていました。2000年4月1日に、当局との交渉が決裂したとの報道があり、マイクロソフトに分割命令が下るとの見方が広がりました。このニュースをきっかけにNasdaqもCiscoの株価も大きく下げています。
ここが「ITバブル」が下げに転じるきっかけと言えるでしょう。しかし、“崩壊”はまだまだこれからです。
2000年6月、9月、12月と3四半期連続してCiscoの営業利益が伸びないという決算発表がありました。3回連続して良くない決算となり、Ciscoの株価が大きく下がって行きます。ここからCiscoだけでなくIT業界全体に疑問が広がり、Nasdaqも下がっていきます。
2000年の年末の時点で、Ciscoはピークから52%、Nasdaqは51%下落し、ITバブルは崩壊してゆくのです。
この頃のCiscoの業績グラフです。
売上は順調に伸びていて、株価が下がるような業績には見えません。しかし、営業利益に注目してみると、1999年は20%を超えるのが普通だったのに、2000年3Q以降は14%程度に悪化しています。一般に、損益分岐点の考え方からすると、売り上げが伸びれば利益率は上がるはずなのに、逆になっています。これではCiscoの稼ぐ力が弱いと解釈されてもしかたありません。
ITバブルのイメージ図です。
ホームページを検索していろんなことがわかる。電子メールを送れば簡単に確実に伝えられる。そういう新しい体験をみんながして、「インターネットってすごい」という認識が広がり、ITバブルが発生しました。
しかし、その盟主のCiscoが「期待したほど稼げない」とわかり、ITバブルがしぼんで行ったのでしょう。
今は“AIバブル”かもしれない
ここまで述べてきた「ITバブル」の震源はインターネットでした。それと比べると弱いかもしれませんが、ここ最近のAIの盛り上がりは相当なもので、「世の中を変えるのではないか」というインパクトがあります。
AIの盛り上がりは、関連する企業の株価を高騰させただけでなく、株価上昇は幅広く及んでいて、平均株価も上げています。株式相場の上昇は、PERで見るとITバブルの頃(27.76)と近い値(29.34)まで来ています。
さて、これは“AIバブル”なのでしょうか? そして、そのバブルははじけるのでしょうか?
ITバブルの崩壊のきっかけは、Ciscoの業績の伸び悩みでした。それと今回が似ているならば、Nvidiaの今後の業績がどうなるかに依ると思われます。
最近、AIについてリスクを指摘する声も目立つようになって来ました。例えば、AIが学習データにはない誤った情報を生成してしまう現象(“ハルシネーション”と呼ばれる)があります。AIに調べ物をさせても、その後人手で情報を確かめなくてはならず、二度手間になるので、AIを使わなくなったという例も増えているようです。このような「あれ? 期待したほどじゃなかった」という認識が広がれば、AIバブルの崩壊につながる可能性があります。
Gartnerハイプ・サイクルの示唆
ハイプとは「誇大広告」のことです。
ハイプ・サイクルは、新しい技術が出てきて、多くの人が注目を始め、熱狂のピークを迎えたあと、期待しすぎたとの幻滅期を経て、徐々に社会に実装されてゆき、安定した技術として役立っていく様子をカーブで表しています。
3DプリンターやVRなども、熱狂と幻滅がありました。いろいろな技術がこのサイクルに当てはまり、よくできたモデルだと思います。
2023年版のハイプ・サイクルで、生成AIは、ほぼピークの位置に置かれ、このあとは幻滅期に入りそうです。Gartner社も「今は、AIの熱狂期だ」と評価していると思われます。つまり「今はAIバブル」と解釈することもできそうです。
先に紹介したITバブルのCiscoの株価の長期チャートを見ると、Gartnerハイプ・サイクルの特徴と類似しています。
今後、Nvidiaもこのような株価推移になるかもしれません。すると他のAIの期待で株価が上がっている銘柄も下落し、さらに「売りが売りを呼んで」幅広い銘柄が値下がりする可能性があると思われます。
最後に、いくつか予想しておきます。(保証はしません)
・「AIバブル」の崩壊が起きるとすれば、タイミングは来年夏以降だろう
・きっかけはNvidiaの利益が伸びないことだろう
・崩壊が始まってからボトムに達するまで2年以上かかるだろう
(株価が下落した時、ナンピンなどをせずに、
適切に損切りできるかどうかが重要)
(ボトムの前にあせって買わない方が良い)
・Nasdaqではピークから30~40%安い辺りがボトムだろう
・同じく、日経平均の下落率は20~30%程度だろう