あとで読む・第8回・日野剛広『本屋なんか好きじゃなかった』(十七時退勤社、2023年)

藤岡みなみさんと堀静香さんのトークイベントがおこなわれた書店(三鷹市・UNITE〈ユニテ〉)で購入した。この本のことは、武田砂鉄さんの旧Twitterで知った。「あとで読む」のではなく、すでに読んでしまった。

日野さんは、千葉県佐倉市の、ときわ書房志津ステーションビル店の店長である。私の職場は、千葉県佐倉市にあるのだが、同じ市内にあっても通勤のルートから少し離れているので、なかなか寄り道するチャンスがなく、2,3度、しかも閉店間際に駆け込んだことがある程度である。そのたびに、欲しい本だけでなくこんな本もあるのかと思わず買ってしまう。

書店のことも武田砂鉄さんのTwitterで知った。砂鉄さんは新刊が出るとこの書店を訪れてサイン本を置いていくというので、どのような本屋さんなのか興味を持った。ときわ書房は千葉県内のチェーン店だが、チェーン店といってもそれぞれの本屋に個性があるのだというあたりまえのことに、あらためて気づいた。

著者略歴を見ると、日野さんは私と同い年である。同い年だから、というわけではないかも知れないが、日野さんの文体は私にはちょうどよい。しかも日野さんはすべてにおいて正直に書いている、と私は感じた。

どの文章も好きなのだが、いちばん共感したのは「本当は本なんかより音楽が好きだ ~高橋幸宏、坂本龍一、両氏の逝去に寄せて」である。これこそ、同じ年齢のときに洗礼を受けた、YMOの高橋幸宏さんと坂本龍一さんへのレクイエム。私が思っていたことが全部言語化されている。私も自分なりにお二人への思いを書いてみたいと思ったことがあるが、これを読み返すだけで十分である。「【追記】」として「本当は三人の中では細野さんが一番好きなのだ…だから細野さんへの思いも書きたいのだけれど、それは置いておく」という言葉も、日野さんの正直さが出ている。

「本屋が閉店するとはどういうことか?を考える」は、読んでいて切なくなる。これほど本屋に対する愛情に溢れた文章はない。というかこの本全体がそうである。「職場体験学習の記憶」の最後の一文、「辛くなったら本屋においで。そんな気持ちでいつでも迎えたいと思っています」、「早川義夫さんと松村雄策さん」の中の言葉、「一つ言っておきたいのは、本屋とは、不器用で弱くて情けない人のためにあるべきだということ」「本屋とは決して少なくない人たちにとって、一人で静かに佇んでいたい場所ではなかったか」は、不意に読むと感情がこみ上げてくる言葉で、くり返し思い出したい。

記憶違いかも知れないが、福沢諭吉の『文明論之概略』に、「酒屋だからといって酒屋の店員がお酒を飲めるとは限らない」みたいなことが書かれている、と丸山真男が紹介していていたような気がする。「本屋だからといって読書が得意だと思うなよ」という著者のメッセージとも通じる気がすると思ったが、全然間違っているかも知れない。

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