いつか観た映画·荻上直子監督、小林聡美主演『めがね』(2007年公開)
公開当時は劇場で観たが、最近、BSのチャンネルで放送されていたので、見返してみた。
スローライフをテーマにした、『かもめ食堂』に続く、荻上直子監督の2作目である。『かもめ食堂』に引き続いて小林聡美が主演で、もたいまさこ、市川実日子、光石研、加瀬亮、薬師丸ひろ子などが脇を固めている。
南の島にタエコ(小林聡美)が訪れる。事情はよくわからないが、どうやら携帯電話の電波が届かないところに長期滞在したいらしい。
ハマダという不思議な一軒宿に泊まることにするが、この一軒宿を切り盛りするユージ(光石研)や、謎の女性サクラ(もたいまさこ)、ハマダに出入りしている高校の生物教師のハルナ(市川実日子)のマイペースぶりにタエコは翻弄される。かまって欲しくないのに、朝起こしに来たり、食事を一緒にとろうとしたり、朝の体操に誘ったり、嫌いなかき氷を食べさせようとしたりと、自分のペースをかき乱されるのである。そのことを告げると、決して無理強いはせず、ニコニコしながら引き下がる。
どこまでマイペースな人たちなんだ!と、ハマダを出て、島にもうひとつあるホテルに滞在することを決めるが、このホテルがなかなかくせ者で、泊まり客に畑仕事をさせて自給自足の生活を強いるのである。ホテルの主人(薬師丸ひろ子)はそれがいいことだと信じてタエコを笑顔で歓迎する。しかしタエコはたまったもんじゃないと、早々にホテルを出てハマダに舞い戻る。タエコはハマダの人々と次第に打ち解けていき、この島のペースに馴染んでいく。映画ではひたすら、青くて美しい海と浜辺を映し出し、波の音が心を癒してくれる。何か事件が起こるわけでもない。
まさにスローライフをテーマにした映画だが、どうもそれだけではないようにも感じた。
この映画は、「善意」についての映画なのだ。タエコに対してハマダの人たちやホテルの女主人は、徹頭徹尾、善意で接している。ところがタエコはそれが煩わしくて仕方がない。窮屈なのである。
ところが、タエコが島に慣れて、この島での暮らしにすっかり溶け込むと、今度はハルナがタエコに対して嫉妬し始める。自分の方がこの島で長く暮らしているのに、自分よりもタエコさんの方がこの島を満喫しているように見える。善意で接しているはずが、いつの間にか嫉妬の感情が芽生えるのだ。
人は善意だけで生きていけるのだろうか。そこにはちょっとした悪意も芽生えるはずだ。しかしちょっとした悪意を抱えながらも、善意に身を委ねてみることも悪くない。そのすべてを肯定することが、この映画の見所なのではないか、というのが、時間をおいて見直してみた感想である。