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いつか観た映画・アレクサンドル・ソクーロフ監督『太陽』(ロシア・イタリア・フランス・スイス合作、2005年、日本公開2006年)

イッセー尾形さんの一人芝居の中で一番好きなネタは、「アトムおじさん」である。深夜のフジテレビで、「イッセー尾形が見たい!」というライブが放送されたとき、あまりに可笑しくて笑い死にするかと思った。
ストリップ劇場の幕間に出てくる老芸人を演じる。喋ろうとすると痰がからんでしまい、ちっともネタが受けない。
この「ここぞというときに喋ろうとすると痰がからんでしまう老人」というキャラクターは、山田洋次監督の映画「男はつらいよ ぼくのおじさん」に受け継がれている。山田監督もこのネタを気に入っていたのだろう。
「移住作家」というネタも好きである。ハクをつけるために海外に移住する作家の話だが、結局、誰もかまってくれない。たまたま取材に来た記者に対して、作家としての威厳をたもちながら、それでいてかまってもらおうと必死になる。いまでいう「かまってちゃん」である。
さまざまな人間を演じてきたイッセー尾形さんが、究極の一人芝居を演じたのが、アレクサンドル・ソクーロフ監督によるロシア・イタリア・フランス・スイス合作映画「太陽」(2005年)だと思う。
ここで彼は、日本の「やんごとなき」人物を演じる。もちろん、この映画には多くの共演者はいるが、事実上、イッセー尾形さんの一人芝居といってよい。
有名俳優に断られた結果、イッセー尾形さんが演じることになったともいわれているが、逆にイッセー尾形さん以外に、誰がこの役を演じることができただろうか、とさえ思えてくる。
そのテーマ性から、日本での公開は不可能ではないか、と当初はいわれていたが、翌年の2006年8月に日本でも公開された。私はこれを映画館で観た。
ひとりの人間としての「孤独とおかしみと悲哀」を描き出している。「人間の孤独とおかしみと悲哀」を見事に演じることのできるイッセー尾形さんであればこそ、この役にふさわしい。
この映画で提起されているひとりの人間としての内面は、世代が変わっても受け継がれているのではないだろうかと、ふと想像してしまう。

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