いつか観たドラマ・「高原へいらっしゃい」(山田太一脚本、TBSテレビ、1976年)
TBSテレビで、1976年に放送していた山田太一脚本、田宮次郎主演のドラマ「高原へいらっしゃい」は、おそらく日本のドラマの中で、私が一番好きなドラマである。
信州の八ヶ岳高原に、何度も人手に渡り、経営が難しいとされるホテルがあった。このホテルの支配人をまかされた面川(田宮次郎)は、このホテルを限られた予算内で経営し、軌道に乗せようと、人を集め、ホテル再建に乗り出す。しかし、なかなかお客は集まらない。
方々からホテルのメンバーを集める様子は、黒澤明監督の映画「七人の侍」にも通ずるものがある。面川は、自分が集めたメンバーを大切にしながら、ホテル経営を続けていこうとするが、なかなかうまくいかない。
このメンバーの中に、面川のお目付役として派遣された、経理担当の大貫(前田吟)という男がいた。合理主義者で敏腕の大貫は、「情」を重んじる面川と、当初は対立し、面川のなまぬるいやり方を見下していた。
しかし時がたつにつれて、大貫は次第に面川の人間性に惹かれていく。
あるとき、面川は、ホテル経営がまったくうまくいかないことで破れかぶれになり、泥酔してホテルに戻ってくる。ホテルのメンバーたちが、そんなぶざまな面川に嫌気がさし、みんなでホテルを辞めよう、と言い出す。
そのときの大貫のセリフは、このドラマの中でも、屈指の名シーンである。
「わかったよ! 君たちは何時だってそうなんだよ! ちょっと具合が悪いことになると、すぐそうやって逃げ出しちゃうんだよ」
「・・・・」
「君たちはね、いつだって損得だけで生きているんだよ。そういう生き方はな、最低なんだぞ。たとえどんなに損をしたって、一つのことをやりとげなくっちゃ駄目なんだよ。一つのことができなくてな、何ができるって言うんだよ!」
「・・・・」
「七郎、お前は人間の出会いをどういうふうに考えているんだ」
「出会いですか?」
「そうだよ出会いだよ。俺とお前が、こんな山の中で会って、出会うっていうことは大変なことなんだぞ」
「そんなに大変ですか」
「あたりまえだよ。出会いを大事にしなくて何を大事にするっていうんだよ」
「言いたいことはそんなことですか」
「そんなことだと? 出会いってのは一番大事なことなんだぞ。ホテルを棄てて出て行くっていうことはな、その一番大切なものを全部棄ててでていってしまうということなんだぞ」
「・・・・」
「君たちは一生後悔するぞ。60歳くらいになって思い出して後悔するぞ」
「俺たちは後悔しませんよ」
「大貫さんは後悔しないようにすればいいじゃないですか」
「あたりまえだよ! 後悔しないよ! 俺は君たちとは違うんだよ。最後までやりぬくんだよ。一人になったってやりぬくんだよ!」
「君たちは一生後悔するぞ。60歳くらいになって思い出して後悔するぞ」
というセリフが、とてもよい。
かつて面川と対立していた大貫は、すっかり心が折れてしまった面川を立ち直らせようと、辞めようとするメンバーたちを必死に説得するのである。それはおよそ合理主義者の大貫には似つかわしくない、ヒューマニズムであった。
面川は、その大貫の心に打たれて、もう一度奮起しようと決意する。
「人間的な弱さをみせる面川」「人間味の溢れる大貫」…これは、それまでの面川や大貫のキャラクターを、裏切る描き方である。しかしだからこそ、この場面は胸を打つ。
大貫に支えられる面川とは、まわりの人たちに支えられているこの私なのではないだろうか。ときどき、そんなことを思う。
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