読書メモ・光浦靖子『50歳になりまして』(文藝春秋、2021年)
前回のnoteにお笑いコンビのオアシズのことを書いたら、光浦靖子さんのエッセイ集が急に読みたくなった。光浦さんは最近2冊のエッセイ集を上梓されているが、時系列に沿って書かれているので、まずは最初のエッセイ集を読まなければならない。
2020年、コロナ禍の真っ最中だったころ、Web上で光浦さんのエッセイが掲載されたのを見つけた。エッセイのタイトルは、この本のタイトルと同じ「50歳になりまして」だったと思う。読んでかなり心が揺さぶられた。2020年4月にカナダに留学する予定が、新型コロナウィルスの世界的拡大により留学できなかったという冒頭から始まって、自分がなぜ50歳になってカナダ留学を真剣に考えるようになったかが書かれていて、私が40歳のときに1年間韓国留学した経験と重ね合わせ、思わずそのエッセイに没入してしまったのである。どれくらい没入したかというと、そのエッセイが掲載されている『月刊文藝春秋』をわざわざ買ったほどである。すでにWeb上でエッセイの全文を読んでいるにもかかわらず、である。このエッセイを紙の雑誌、しかも縦書きで読みたかったのである。
このエッセイは、この本の冒頭に再録されている。あらためて読み直すと、自分がどの部分を読んで心が揺さぶられたかを思い出すことができた。
「外国生まれの日本人の友達がいます。彼女は10代で日本に戻ってきた時、虐められたそうです。「違う」と。でも彼女は「世界はここだけじゃない」ということを知っていたから、虐めを乗り越えられたそうです。仕事も友人も住む場所も、「世界はここだけじゃない」と知ったら、どれだけ強くなれるんだろう。私はそれを知りたいのです。英語から逃げた分岐点に戻って、もうひとつの人生も回収したいんです。私には時間があり過ぎるし」
子どものころから人間関係には悩んでいたらしい。他人から勝手に「キャラ付け」されることに理不尽さを強く感じていたようだ。
「私がタバコを吸っていると知ると、多くの人が『なんかムカつく』と言いました。出た!!バイト時代、社員に最も言われたセリフ『なんかムカつく』。
私は『ここでタバコを吸わないでください!!』って怒る学級委員キャラなんですって。なのにそいつが吸ってるって、似合ってなくて、なんかムカつくんですって。おかしくない?そもそも私を喩えてるその学級委員ってのが、ルールにうるさくて融通が利かない人の代名詞として使ってません?じゃ、吸おうが吸うまいが、元々私になんかムカついてるんじゃん!」(「タバコ」)。
「人は人をカテゴライズしたがります。分類して引き出しに押し込めて、そこからはみ出ることを嫌います。『いやいや。そういうキャラっじゃないでしょ』と、とても引いた顔で言えば、人を動けなくさせることができます。言われた方は、なりたい自分からどんどん遠ざかって、他人のなってほしい自分に収まることしかできなくなります。意地悪。自分が怖いからといって、人を型にはめ込むなんて。若人よ。そんな奴らにウンコをぶつけましょう」(「歯列矯正」)
カナダ留学の前まで、文化放送「大竹まこと ゴールデンラジオ」の毎週木曜日、大竹まことさんと光浦靖子さんの掛け合いを聴くのが習慣だった。この本の語りは、そのときの喋りを彷彿とさせる。だからラジオのお喋りを聴くようにこの文章を読むことができる。
そういえばこの本には大竹まことさんのことについても書いている。
「…大竹さんに向かって親友って。あの『全ての東京のお笑いライブはシティボーイズに繋がる』と言われた、シティーボーイズの大竹さんです。幕間にVTRを流す、かっこいい音楽をかける、コントとコントが実は繋がっていたという手法。いまや、当たり前となっていますが、シティボーイズさんが全て最初です。おしゃれ、センス、Tokyo、憧れの人です。でも本当に、年齢も性別も違うのに、コーヒー1杯あればずーっとお喋りしてられるんですもん。
大竹さんは弱い人間に、ダメな人間に優しいです。絶対に見捨てません。私はこそにつけ込んでいます」
この本には拾いたくなる言葉がたくさんある。それを書き出すとキリがない。
さあ、カナダ留学は2021年7月にようやく実現することになる。その顛末を知りたいので、次は『ようやくカナダに行きまして』(文藝春秋、2024年)を読むことにする。