読書メモ·『KAWADEムック 文芸別冊 高橋幸宏 音楽粋人の全貌』(河出書房新社、2024年)
高橋幸宏さんの追悼関係の特集本は買い集めたつもりだったが、この本はつい最近知って書店で買い求めた。
「特別インタビュー」の人選が素晴らしい。幸宏さん周りにいたミュージシャンはもちろんのこと、のんさんとか大林千茱萸さんとかいとうせいこうさんなどにもインタビューしていたり、細野晴臣さんや坂本龍一さんや椎名誠さんや大林宣彦さんとの過去の対談などもアーカイブされていたりする。保存版である。
その中でとりわけ印象的だったのは、ピーター・バラカンさんのインタビューだった。ピーター・バラカンさんはYMOの曲の歌詞の英訳を担当するなど、その名前は私がYMOファンだった中学時代からなじみ深かった。
2年ほど前から、InterFMの「Barakan Beat」を聴くのが習慣になった。2時間の生放送で、バラカンさんがリスナーからのリクエストに応えつつも、自分の好きな音楽をひたすらかけまくる。私は音楽の知識がまったくないのでただただそれを聴くだけなのだが、音楽に対する知識がまったくなくても、聴いているだけで楽しい。
リスナーからの「どんな曲をリクエストしていいかわからない」といったような内容のメールに対して、「どんな曲でもいいからリクエストください。僕がかけたい曲はかけるし、かけたくない曲はかけませんけれど」といったようなことをおっしゃっていて、なるほどこれが「バラカン方式」というものかと、その正直で自然体の姿勢にすっかり影響を受けた。この本のロングインタビューも、バラカンさんの生き方が正直かつ自然体で語られていて、憧れるところが多い。
「僕はテクノにはあまり興味はなかったんですが、スタジオで彼らがやることを見ていて、感心させられました。そのちょっと前から僕は「ミュージックマガジン」でレコード評を書いていたんですが、YMOの仕事を始めてすぐにミュージシャンが一生懸命に作っている音楽をたやすく批判したり、わざわざ批判するところを見つけたりすることに違和感を持つようになって、レコード評を書くなら自分の好きなものしか書かないという風に決めたんです」(56頁)
「仕事の関係がなくなったら(YMOの音楽を)必ずしも聞くことはなかった。僕は僕で自分の仕事や、自分が能動的に聴きたいものだけでも時間が足りないくらいなんです。その状態がもう何十年もつづいている。ストレスになるほど音楽を聴くことに意味はないと思っている人間だからね。だから評論家というのはすごいと思うんですよ、あの人たちはなんでも聴いているからね。僕はそこまで努力しない。楽しく音楽を聴きたい。それだったらと優先順位を決めて無理なく聞けるものを聴いているんですね」(61頁)
バラカンさんは音楽評論家ではない。自身の好きな音楽をひたすら紹介し続ける。たぶんそれが息長く音楽と関わっていく秘訣なのだろう。「レコード評を書くなら自分の好きなものしか書かない」という境地は、今の私ならばすごくよくわかる。
「自分が若い時に聴いていたミュージシャンが亡くなる時期にさしかかっているんでしょうね。ここ数年、毎週のようにだれかがいなくなっちゃう。一時期ラジオで毎回追悼特集を組んだりしていたんだけど、そればっかりになっちゃって、幸宏も教授も追悼特集をやってないんですよ。最初はやんなきゃと思っていたんだけど、そうこうしているうちに機会を逃してしまった。特集を組もうと思えば簡単に組めるんだけど、実際に僕が関わったのは短い時期だし、彼らの全体的なミュージシャン像が浮かび上がるようにはならない。だからいろいろなことを考えていて、気が向いた時に一曲かけたり、ね」(64頁)
最後の「気が向いた時に一曲かけたり、ね」というスタンスが、とてもいい。好きなものに背伸びしないことが、長く好きでいられる秘訣なのかもしれない。
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