楳図かずお『おろち』より「ステージ」
入院中なのでなかなか情報が遮断されているが、楳図かずお先生の訃報に接した。小学生の頃は『漂流教室』を貪るように読み、それがきっかけで怪奇漫画に傾倒していった。
一番好きな怪奇漫画は何かと問われたら、『おろち』というシリーズの「ステージ」をあげたい。主人公のおろちは永遠に年を取らない少女で、数多くの人の人生を見届ける。その連作漫画である。
おろちが注目した人生の一人が、ある少年である。その少年は幼い頃、親がひき逃げ事故に遭って亡くなった。少年はひき逃げ事故の犯人をはっきりと見た。なんと子供向け番組の「歌のおにいさん」だったのである。毎日テレビで見ていたのだから間違いない。
しかし少年の目撃は、証拠にならないと却下された。歌のおにいさんは、それでも嫌疑がかかったという理由で歌のおにいさんを引退した。
それから少年は暗い日々を過ごす。しかしあるとき、テレビである演歌歌手が歌っているのを見て驚いた。歌のおにいさんだ!顔を整形して一見してわからないが、その少年にははっきりとわかった。そこから少年の復讐劇が始まる。
少年は歌に目覚め、のど自慢に優勝し、それがきっかけでその演歌歌手のもとに弟子入りし、他の弟子を陰で蹴散らして、その演歌歌手の一番の信頼を勝ち取るばかりか、その少年に頼らざるを得ない状況をつくりあげる。もはや復讐の相手を意のままに操ることができるようになる。
彼なりの復讐を遂げたあと、彼は歌の世界から足を洗い、以前の平凡な生活に戻る。
そしてその少年の人生のすべてを、おろちは見守るのである。
復讐への執念に満ちた強烈な作品で、これはもう文学と言ってもいい。私が小学生の時に鮮烈な印象を残した漫画だった。