回想・阿佐ヶ谷姉妹『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』(幻冬舎文庫、2020年、初出2018年)
『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』が刊行された年が2018年ということは、私の娘と同い年ということになる。この本が文庫化された折に手に入れたのだが、文庫化されてからやや経って、中央線沿線の書店に阿佐ヶ谷姉妹のサイン入りの文庫本がゲリラ的に置かれたときがあり、サイン本を求めて中央線沿線の書店を彷徨い、買い直した。我ながらヒマな人生だ。
あらためて読むと姉のエリコさんと妹のミホさんの文体の違いが対照的で、とても面白い。どちらかといえばウェットな文体のエリコさんは人情話を得意とし、どちらかといえばドライな文体のミホさんは独特の世界観で笑わせてくれる。もしふたりが落語家になったとしたら、エリコさんは人情噺を得意とした噺家になり、ミホさんは創作落語を得意とする噺家になったかもしれない。エリコさんの「エッセイとカレー」「朝陽のこと」というエッセイが大好きで、ひとりで阿佐ヶ谷駅北口を散歩した折、前者に登場する喫茶店でコーヒーを飲んだり、後者に登場する中華料理屋「朝陽」でチャーハンを食べたりした。やはり我ながらヒマな人生だ。
このエッセイはのちにNHKで連続ドラマ化された(2021年)。文字通りエッセイの世界観を体現したようなドラマで、エリコさんを木村多江さんが演じ、ミホさんを安藤玉恵さんが演じた。ほかのキャストもエッセイの世界から抜け出たようなベストな布陣で、毎週見るのが楽しみだった。
当時3歳だった娘と一緒にこのドラマを見たら、娘はたちまち阿佐ヶ谷姉妹のファンになった。ふたりのコントのセリフをまねるようにもなった。そういわれてみればうちの娘はどことなくミホさんに雰囲気が似ている。一人っ子だという点もミホさんと同じ。第1話を一緒に観ていたときなどは、
「ミホさんは、ひとりっ子は楽だと言ってたけど、ひとりっ子は楽じゃないよね?」
というの娘の言葉に、思わず爆笑してしまった。
「そうだね。楽じゃないよね」
娘なりに、ひとりっ子で苦労しているらしい。
あるとき、「阿佐ヶ谷に行きたい」と言い出し、娘とふたりで阿佐ヶ谷駅北口を散歩した。阿佐ヶ谷姉妹が住んでいるアパートはこの辺かな?と想像しながら歩くだけで、なんとなく楽しかった。
それから3年ほどが経ち、娘は小学生となり、ほかに楽しいことが増えたせいか、阿佐ヶ谷姉妹のことは口にしなくなった。でも録画したドラマはいまでも消さずにとっておいてある。