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連想読書·レベッカ·ソルニット著、ハーン小路恭子訳『説教したがる男たち』(左右社、2018年)

「マンスプレイニング」(mansplaining)という言葉が広まるきっかけになった本と言われているが、実はこの言葉の創出には著者は関わっていないことがこの本に書いてある。うっかり著者発の言葉として自慢げに紹介するところだった。やはり知ったかぶりはよくない。
「説教したがる男たち」というタイトルを見て、「いるいるうちの職場にも!」と膝を打つ人は多いだろう。知らないことや中途半端な知識を年上の男性が知ったかぶって若い女性に説明したがる、という光景は、はたからみれば滑稽である。あるいは私もそう思われているかもしれない。
しかしこの滑稽な光景の背景にはかなり深刻な問題がひそんでいる。性暴力やドメスティックバイオレンス(DV)など、いまでもそうした事件は絶えない。この国でここ数年に起こった事件を思い返すだけでも、いくつものケースを指摘することができる。報道されていない事例は無数にあるであろうことも容易に想像できる。根底にあるのは、男性による女性の支配、という構造だ。
この本は10年前に書かれた本だが、その当時アメリカでは8万7000件を優に越えるレイプが起きていると著者は紹介している。しかしそれらはひとつひとつの独立した事件としてしか扱われておらず、社会の構造的な問題であるという認識がないという。だからなおさら事件が埋没してしまう。

前回紹介した武田砂鉄さんの『テレビ磁石』(光文社、2024年)には、ワイドショーにおける東国原英夫氏や武田鉄矢氏の共通した発言を紹介して、その暴論ぶりを指摘している。曰く、「家庭内だと圧倒的に女性の方に権力がある。でも数値化できないんですよ。そこも数字に入れたら、日本って女性の方が上になると思いますよ」(東国原英夫氏の発言、49頁)「私は、西洋に比べて、欧米列強に比べて、この日本が、特に女性にかんして、男性優位社会って言われてますけど、そんなふうに感じたことはありません。やっぱり日本で一番強いのは奥さんたちだと思いますよ」(武田鉄矢氏の発言、155頁)
家庭では女性の方が強いと本気でそう思っているのだろうか?家庭内における男性の女性に対する日常的な暴力、すなわちDVに関しては不問に付してよいのだろうか。その点こそ「数値化」する必要があるのではないか。

「説教したがる男たち」ということで言えば、この国のテレビ番組はどうだろう。年上の男性が若い女性に知識を教え諭す、というスタイルの番組がいくつか確認できる。毎朝の情報番組では、年上の男性が若い女性アナウンサーに言葉の由来を説明する短いコーナーがある。ニュースを解説する番組では、ベテランの男性ニュース解説者がひな壇の男女の芸能人に語りかけるスタイルだが、アシスタントは若い女性アナウンサーである。かくいう私も、何度かそういう場に立たされた体験があり、あれでよかったのだろうかと今でも逡巡している。少なくともあたりまえのように見ている光景について、立ち止まって考える姿勢だけは忘れないようにしたい。

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