オトジェニック・久石譲「人生のメリーゴーランド」
高校時代の親友・小林からメールが届いた。日ごろは会社勤めをしている小林だが、むかしからジャズに詳しく、いまでもテナーサックスを吹き続けている。
「貴君のNOTEを読みました。幸宏のサラヴァですか。
本当に久しぶりにそのアルバム名を聞きました。
サラヴァは私がYMOにハマって音楽を聞き始めた小学校六年生の時に確か初めて買ったレコード、YMOの増殖の次に買ったレコードだったと思います。
当時、国立駅前の富士見通り沿いにあった多分今はもう無いレコード屋で買ったという記憶が朧げにあります。
私はYMOの中で一番好きだったのが幸宏だったので買ったのですが、YMOとは全く違った音楽に戸惑いつつ何度も聴いたレコードです。
その後まもなく中学生になってジャズに目覚めて、幸宏はセカンドアルバムの音楽殺人を買って終わってしまい、多分サラヴァは少なくとも30年以上、もしかすると40年以上聴いていません。
でも、その後、何度となく引っ越すたびに、処分しようかと思いつつも、結局、東京、千葉、福岡、大阪、そしてまた東京と、あちこちを一緒に移動して今も手元にあります。
本当に久しぶりに聴いてみたいと思ったのですが、生憎、レコードプレイヤーが壊れていて聴けないので、プレイヤーを買い直そうかと思い初めました。まあ、本当に買うか怪しいところですが。
おまけで、サラヴァの写真つけときます。ジャケットに印刷されているミュージシャンを見ると中々凄いメンバーですね」
小林からのメールには、サラヴァのLPレコードのジャケットが添付されていた。
若い人は知らないと思うが、LPレコードというのは…(以下略)。
驚いたのは、小林がいまでもレコードプレイヤーでLPレコードを聴く習慣があるということである。私がとっくに手放してしまった青春時代のアイテムを、小林は手放していなかった。
小林は私のnoteを継続的に読んでくれているようだが、おそらくそのうちの大部分は彼にとってはどうでもいい内容だと思う。自分の琴線に触れたもののみ、感想を書いてくれるのが嬉しい。しかも彼との連絡手段は携帯メールのみ。LINEとかSNSのチャット機能などは使わず、むかしながらのメールのやりとりである。これもまたよい。
このnoteに音楽についての文章を書くたびに、いつも小林の評価が気になる。私のようなド素人の底の浅い感想を、小林はどう思っているのかと。
そういえば少し前、小林が大阪在住の時、所属するビッグバンドが奈良のお寺で演奏会をして、それがYouTubeにアップされているので見てみてくれと連絡をもらった。
さっそく見てみると、何曲か演奏している中で、久石譲さんの「人生のメリーゴーランド」がビッグバンド用にアレンジされて演奏されていた。
その演奏を聞いて、私は「Beautiful Love」というジャズのスタンダードナンバーを思い出した。「人生のメリーゴーランド」が、なんとなくその曲を連想させたのである。
私はその感想を率直に小林に伝えてみた。すると小林から、次のような返事が来た。
「貴君が、人生のメリーゴーランドがBeautiful Loveを彷彿させる、と書いていましたが、そう言われてナルホドと気付きました。
人生のメリーゴーランドは短調、即ちマイナーのキーが4小節続き、その後の4小節は長調、即ちメジャーに転調します。
この展開ははBeautiful Loveも一緒ですし、有名な枯葉も同じような構成です。
ちなみに私のオリジナルもマイナーで始まり、少し間を挟んでメジャーに転調するので似たような感じは有ります。
そもそも自分も含めて日本人はマイナーの曲を好むというか、感情移入しやすい傾向にあるように思います。
そうすると、貴君が私の演奏で感心したのも、私の演奏技術というより、日本人好みのマイナーの曲だったからでしょうか。う〜ん」
最後の部分、私は決してそういうつもりで書いたわけではないが、私が嬉しかったのは、「人生のメリーゴーランド」が「Beautiful Love」を彷彿とさせるという私の勝手な見立てを、理論立てたうえで共感してくれたことである。私の直感も、なかなか捨てたものではない。自分の印象を大事にしてよいのだと教えてくれた。
そんな小林もこの4月に大阪から東京に転勤となった。まだ会っていないが、自分の居場所となるビッグバンドは見つけられただろうか。
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