都立大のあたりを散歩する
妻と義母に「南大沢のアウトレットに行きたいので車を出してほしい」と言われ、南大沢のアウトレットまで車を運転した。私が現地でやるべきことは、二人が買い物をしている間、小学1年生の娘の面倒を見ることである。
アウトレット内にある遊具で遊ばせようとしたのだが、幼児向けの遊具ばかりで娘は物足りない顔をした。そして「公園に行きたい」と言い始めた。ちゃんとした遊具のある公園に行きたいということらしい。娘は自分の主張を頑として譲らない性格なので、一度言い出したらきかない。私はスマホで「この近くの公園」と検索すると、都立大の西側に2つの公園があるという結果が出た。歩いてもそれほどの距離ではないので、日差しの強い中、その公園まで歩いて行くことにした。
アウトレットを出て駅とは反対方向にある橋を渡ると、そこはもう都立大のキャンパスである。都立大には用事でいちど来たことがあるが、通り道の、しかもこれほど近いところにアウトレットがあって、学生たちは誘惑に負けないのだろうかと他人事ながら心配になってきた。
日曜日なので大学に入ることはできないので、娘の手を引いて都立大の前を東西に走る幅広の遊歩道を、西に向かって歩いた。
するとまた道路に架かる橋がある。その橋を渡り、幅広の遊歩道をそのまま進んでいくと、アウトレットの喧噪が嘘のように、人っ子ひとりいなくなった。幅広の遊歩道の両側には道に沿って木が植えられ、新緑の葉が遊歩道全体に日陰を作り、歩いていて気持ちがよかった。両側は団地がそびえていて、こういうところで暮らすのも悪くないと思うほど、静謐で落ち着いた空間だった。
Googleマップによれば、1つめの公園はこの歩道から少しはずれた場所にある。Googleマップの教え通りに歩道から右にそれる階段を上ると、公園があった。そこにはアスレチックのような立派な滑り台があった。ところが近づいてみると、
「使用禁止」
と書いており、立ち入り禁止を意味するテープのようなものが張りめぐらされている。
娘はがっかりした。せっかく思い切って遊べるような遊具があるのに、それが使えないとは。たしかにその遊具はかなり老朽化が進んでおり、うっかり使うと事故が起こりそうな雰囲気を醸し出していた。
遊具ばかりではなかった。遊歩道にときおり置かれている木製のベンチにも、事件現場のような「立ち入り禁止」のテープが貼られていた。木製のベンチも朽ちていたのだ。
気を取り直して、2つめの公園に向かうことにした。広い歩道をさらに西に進むと、やがて左手に小学校が見える。その小学校に沿って坂を下ったところの右側に公園があるというのだ。
Googleマップの教え通り小学校に沿って坂道を下ったのだが、右側には崖がそびえ立っていて、とても公園がありそうな気配はない。それでもなんとか崖に登る階段を見つけ、上ってみたのだが、すでにGoogleマップは公園とはまったく違う場所を指している。
(いったいどうなっているのだ?)
娘はだんだん怖くなったらしく、
「もう帰ろうよ」
と言い始めた。
「公園はもういいの?」と聞くと「もういい」と答えたので、踵を返して都立大の正門に向かった。
都立大に戻るには、道路に架かる橋を再び渡らなければならない。その橋を渡ったとたん、日差しをさえぎるものもなくなり、広い歩道は賑やかになった。
あの橋は、俗世間と異空間とを繋ぐ橋だったのか。
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