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オトジェニック・そのむかし、フュージョンという音楽がありまして
私にとっての80年代音楽のキーワードは、「フュージョン」である。
ジャズを基調として、ロックなどの要素をとりいれた、インストゥルメンタル。これが私の理解する「フュージョン」である。
80年代は、フュージョンの全盛期だった。FMラジオでもフュージョンの特集が組まれたり、テレビでも、フュージョンバンドのライブがふつうに放送されていた。私は、渡辺貞夫、ザ・スクエア、カシオペア、MALTAなどをよく聞いた。高校時代にはライブにもよく行った。
夏に各地で行われるジャス・フェスティバルにも、フュージョンバンドは引っぱりだこだった。
フュージョンの特徴は、なによりも「わかりやすいメロディ」。そして、「聞きやすさ」。
底抜けに明るいメロディであろうと、センチメンタルなメロディであろうと、それが実にストレートに表現される。
だから、喫茶店やスーパーマーケットのBGMとして、「安く」使われることもあった。
正統派のジャズが好きな人からみれば、邪道だったのかもしれない。しかし、ジャズミュージシャンとしてその地位を確立していた渡辺貞夫さんも、80年代にはフュージョン寄りの音楽を追究していた。邪道なのかも知れないが、渡辺貞夫さんがそれによりジャズの楽しさを日本に広めたことは、何人も否定することはできまい。
80年代は、そうした「ストレートなわかりやすさ」が受け入れられていた時代だったのではないか。
だが、不思議なことに、90年代に入ると、人気を博したフュージョンバンドのどれもが、急速に精彩を欠いていく。テレビやラジオでの露出も極端に減っていくのである。
渡辺貞夫さんも、90年代以降、新しい音楽を追究していくことになる。
なぜか80年代にのみ受け入れられたフュージョン。だから私にとって、フュージョンは80年代の音楽の象徴なのである。
しかし、インストゥルメンタルとかフュージョンというのは、あまり評価がされにくいような印象も、当時から感じていた。
「歌詞のない音楽なんて、無理」
みたいな反応があったし、最近ではさらにその傾向が強いのではないだろうか。
いまから10年以上前になるが、前の職場の学生たちとフュージョンバンドを組んで、学園祭で3曲ほど演奏したときは、これほど楽しいと思ったことはなかった。
しかし、学生たちは「フュージョン」という音楽ジャンルを知らなかったらしい。MCをつとめた学生は、
「みなさん馴染みがないかも知れませんけれど、インストの曲を演奏しますよ」
と観客に説明していた。フュージョンという言葉は、死語になってしまったのだろうか。でも、フュージョンはやっぱり私にとって好きな音楽だし、私の人生の立ち位置にふさわしい音楽なのである。