𝑻𝑶𝑲𝒀𝑶
𝑻𝑶𝑲𝒀𝑶…
さて、果たしてこのフォントがしっかり反映されているだろうか。私はキーボードアプリのSimejiを愛用しているのだが、かれこれ十年以上の付き合いになる。
そのSimejiで東京を変換すると候補に現れるのだ。𝑻𝑶𝑲𝒀𝑶。
なんともシティでアバンギャルドではないか。
さて、私の弟と妹の三人はとても仲が良いので、兄弟妹のLINEグループがある。日常の他愛のない話から親族で起きた問題報告の場でもある。
そんなグループで、弟が東京出張から帰りの飛行機に乗る話をしていた時だった。
「あばよ 𝑻𝒐𝒌𝒚𝒐」
弟が言った。なんだそのオシャレな斜体は。
私も負けじと変換に現れたソイツを叩き返した。
「𝑻𝑶𝑲𝒀𝑶…」
私は全て大文字である。こちらの予想通り、弟は更に悪ノリして返してきた。
「OH...𝑻𝑶𝑲𝒀𝑶…」
彼のやりたいニュアンスはすぐに伝わった。当然私も更に乗っかる。
「Big City 𝑻𝑶𝑲𝒀𝑶」
こんな応酬が繰り広げられた。
弟はYESとかyeahとか感情面を押し出した𝑻𝑶𝑲𝒀𝑶を。
私はsentimental cityとかそんな具合である。意味など知らぬ。なんだ、センチメンタルって。これでいいのである。私の父が敬愛するブルース•リー氏の有名なセリフにもある『Don't Think.Feel』というやつである。
次に弟から送られてきたのは、世界的に有名な炭酸飲料の写真である。赤いラベルが眩しい。
「Coca-Cola…」
見ればわかる文言が後から送られてきた。これに対して私は
「Delicious…」
と返しているのだが、正直に申し上げると私はあまり好んではいない。英単語で返したかったであろうことは想像に難しくない。
さらに写真が届いた。これから乗るらしい飛行機の写真であった。
「ku-ko-」
せめてairportと書けと思いつつ笑ってしまった。何か返さなければ。とりあえず目に付いたので
「JAL…」
と返した。私がまだ十代だった頃に、インターネットで仲良くなった女の子に会いに九州方面に飛び回っていたのだが、その時愛用していたのがJALであったな、などと思いを馳せながら返事を待っていると、帰ってきたのは
「noru…」
であった。そりゃそうだ。乗ってくれなきゃ帰ってこられないではないか。
そこでネタ切れだったのだろう。『てか聞いてや』といつもの愚痴吐きに移ったので、我々の𝑻𝑶𝑲𝒀𝑶談義はこれで幕引きとなった。
さて、私はこの弟とのやりとりをスクリーンショットでも保存していて、たまに読み返しては腹を抱えて笑っているのだが、ここまで読んでいただいた皆様にはどうだっただろうか?
この面白さを落とす事なく表現できなかった私の描写力が足りないのか、これがいわゆる身内のノリだから面白いのかがわからないが、私にはこういうしょうもないことが堪らなく楽しいのである、という自慢をしたかっただけであった。
満足したのでこれにて終わりと致します。