スーツケースに心をこめて②
荷造りがだいたい終わってしまった。
私の旅行は明日からの予定で、夫は今日も仕事に精を出すだろう。今月いっぱいで今の現場は形になるな、そう言っていた。中間管理職ともなると色々大変だろうが、基本的に仕事の事を話されてもチンプンカンプンなので、私は聞いているフリだけしている。愛と傾聴は微妙に違うのだ。
しかし、どんなになっても夫のことを愛し抜けると思う。旅先で何かハプニングが有ろうが無かろうが、やっぱり帰って来るのは夫の元だ。
夫が出て行ったあと、家の中はシンとなる。テレビでも付ければいいが、それぐらいだったら音楽でも聴こうかと思った。最近はろくなニュースが無い。「水曜日のカンパネラ」というミュージシャンの「エジソン」という曲が最近はお気に入りである。若い女の子が歌っている。
料理するヒマがあったら発明して
愛するヒマがあったら発明して
そんな発明王にオレはなる・・・
替え歌バージョンを勝手に作って、上手く歌えなかったのでクスリと自分で笑った。
シンとなった家の中で、周りを見回すと、夫が出さねばならぬ封筒が目に入った。私が日中に郵便局に行って出せばいいかどうか、3秒ほど考えた。
夫は身の回りのことで世話を焼かれると、嫌な顔をする。どうしよう。裏返して宛名を見てみると、大して緊急の用事の郵便物では無さそうだった。もう2秒ぐらい考えて、放っておくことにした。
世話を焼くヒマがあったら発明して
嫌われるヒマがあったら発明して
またも上手く歌えないので、苦笑いしてコーヒーを啜った。
つづく
(この話はフィクションです)