しとしと祭り
昼花火があがって、浮き足立つ子が、「ひとりぼっち」
と云う歌をうたっている。
「けっこう、降ってるよ」「あたしは、行かない」と妻が云う。僕は、
映画を観ていて、「ひとりぼっち」の歌が鬱陶しい。
狭い穴蔵に、大人の男が素っ裸で、震えて
隠れている所を、寝そべって観ていて。そして、
結局、見つかって。引きずり出される男の絶望的なアップに、
「ひとりぼっち」の歌がとても鬱陶しくて。
君の歌う「ひとりぼっち」は、聞いてると、あんがい、
明るい内容じゃないか。「ひとりぼっち」だけが、一人歩きして、
傘をさして、道を歩いていく。だめだよ。もう。しょうがないなー。
結局、パパは、そうなんだから、いや、そうじゃなくて、
ズボンを履くが、「あんたは、行くのか?」「だから、あたしは、行かない」
傘をさし、二人で、道を歩いていく。侘しい祭り。
やる気のない屋台に、子は、はしゃいでいるが、あの素っ裸で
引きずり出された男は、どうなっちゃうのだろうか。
300円でスーパーボールを金魚掬いみたいに、掬って、
あっけなく、破れて、僕を見上げて、がっかりしてるのは、
僕も一緒だよ。また、300円使って、やっと掬えた
2個のスーパーボールに、君は、有り難い事に、
大変満足してくれている。進めば、進む程、侘しさが増して、
あの震えていた男は、どうなっちゃうんだろう。もう、
僕も覚えちゃったよ。「ひとりぼっち」の歌。
君が「ひとりぼっち」の歌をうたい、僕が「ひとりぼっち」の歌をうたい、
濡れて、開けば、妻が、ああ、お帰り。
さっそく、君は、スパーボールを天井まで届かせて
僕は、さっそく、絶望的な男の顛末を、寝そべって、観る。
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