探偵

ぼくは 探偵かなにかだと おもわれた
ジングルベルのあの曲が 狂ったように
まちじゅう リピートされる
ああ 時は 年末なんだなぁと おもわれた
ぼくは 誰かを 見張っている
浮気調査じゃなきゃいいな
と おもわれた
大きな道を 電信柱が 遠近法で
奥の一点まで 続いている
ぼくは 一本 また 一本 と
慎重に 時間をかけ 移り 隠れる
とは いかないように おもわれた
身を潜めるには 長すぎるコートだ
と 裾を踏んでは 蹴つまずき 
蹴つまずく合間に
歩行している のではないか
と ぼくに おもわれた
大きすぎる 
探偵風の帽子から
ギョロギョロのぞく左目には
(ぼくは 黒い革製の眼帯を右目にしているのだった)
まちじゅうが 写っていた
まちじゅうには なにもないように おもわれた
あるのは 電信柱と狂ったあの曲

ぼくは ぼくに 探偵なんかではないように おもわれた
おもわれたぼくは それでは いったい誰を見張っているのだ
と ぼくがおもわれた 誰もいない まちじゅうで
それは ぼくさ と誰かに ぼくは おもわれた
ぼくじゅうの誰かのなかで 
ぼくこそが 誰かだと 誰かに おもわれた

あるのは 電信柱と狂ったリピート
一本 また 一本 と
一点の奥まで 延々が 続いている
影から影へ 誰かが 
身を 潜める
蹴つまずく合間に
歩行を繰り返しては 
蹴つまずく
まちじゅうのぼくらを
見張っている
ように 誰かに おもわれた

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