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山への想い ー 斉藤圭以さん ー

皆さんこんにちは。トラベルライターのヤマです。

 今回は、超が付くほどのアウトドアガール、斉藤圭以(さいとう けい)さんにインタビューさせていただきました。昨年からより本格的に山に向き合いだした齊藤さん。山の原点や今に至るまで、そしてその原動力はどこにあるのかを聞かせていただきました。

【斉藤圭以さんプロフィール】
社会人として働く傍ら、スキー、登山、トレイルランニング、マラソン、テニス、バドミントンと、幅広い分野のスポーツに取り組み、どの分野においても秀でたスキルを持つ。特に、トレイルランニングでは各大会で上位の成績を収めている。最近ではクライミング(ボルダリング)にも挑戦。圧倒的な才能を見せる。


山との出会い ー 原点となる登山、奥穂高岳 ー


ーー様々なスポーツに取り組んでいますが、最近の斉藤さんを見ていると、山という印象が非常に強いです。どのように山と出会ったのでしょうか。

 思い返すと、小学4年生の頃に家族旅行で登った奥穂高岳(3190m)です。

ーー小学4年生で奥穂高岳は凄いチョイスですね。その時の景色がよかったとかでしょうか。

 それが、全然良くなかったんです。雨が降ってしまって、リュックの中身が濡れないように、中の荷物を全部ゴミ袋で覆って、リュックはもう濡れる前提。カッパも百均で売っているようなものを持って行ったのでもう全身ずぶ濡れでした。

奥穂高岳山頂:晴れていれば360°、北アルプスを始めとした名峰たちが広がる

ーーそこだけ聞くと、むしろ山が嫌になりそうですけれど・・・。
 
 普通そうですよね。ずっとガスっていて(登山用語で霧がかかっていること)景色はあまり見えなかったですし、山頂からの展望もゼロでした。それでも、私は楽しかった。あんなに自然が深いところや、岩稜帯へ行くのは初めてでした。それに、徳沢、横尾へと、美しい梓川沿いを歩いたことも印象深かったです。下山するのが悲しかったほどでした。

梓川と穂高連峰を眺めながら歩く絶景の道

 また、山で出会う人たちがすれ違うと挨拶をしてくれて、私が小さかったこともあったので、「何歳?すごいね!」と声もかけてくれました。それもすごく嬉しかったです。

ーー悪天の中でもこれらのことに感動できるのは素敵な感性をお持ちだなと思います。この山行ではちょっとしたトラブルもあったっと聞いていますが、何があったんでしょうか。

 母がザックを落としてしまったんです。疲れ果てていたので、一瞬気が抜けてしまったんですかね。岩場で少し休憩しようとザックを置いたら、そのままコロコロと。ガスっていたので、どこに落ちたのかも見えなくなってしまって。そこで、一旦上の奥穂高山荘まで行って、事情を伝えたら、山小屋の人が取りに行ってくれたんです。あんな場所を降りていくんだと驚かされました。結果として、ザックは戻ってきたんです。
 あの落ちていくザックを見た時、私も落ちたらああなってしまうんだなと、恐怖感、緊張感を覚えました。でも、その緊張感もなんかよかったなと思います。

山の世界にのめり込むきっかけとなった登山 ー 劔岳・赤岳(八ヶ岳)


ーー奥穂高岳の後、頻繁に山へ行くようになったんですか。
 
 その後は、結構間が空いてしまって。私は小5から本格的に陸上を始めて、姉も吹奏楽に熱心に取り組んでいたのでしばらく家族旅行を出来ていませんでした。ようやく落ち着いて再び皆で山へ行けたのは大学生になってからで、劔岳(2999m)に登りました。

岩と氷の殿堂とも称される劔岳

 この時、母は麓の室堂というところに泊って、父と姉と私の3人で登りました。父は、普段寡黙な人なんですけど、登っているときはすれ違う人に色々と声を掛けていて、「あ、この人喋るんだ」って思いましたね。父の意外な一面を見た瞬間でした。
 劔岳は、カニのタテバイ、カニのヨコバイと呼ばれる危険なエリアを始めとする岩場がメインの山なんですけど、先におじいちゃん、おばあちゃんのグループが多くて、凄くのんびりだったんです。それに姉も足がすくんでなかなか進めなくて。そんな中、私は軽快に歩けて、終始楽しかったんです。その時、私は山に向いているのかもしれないと思ったんです。 

カニのタテバイ:下は絶壁、極度の緊張感が求められる

 この時は、景色もとてもよくて、「山、めっちゃいいじゃん」って思いましたね。

 翌年に登った八ヶ岳でも、山に向いているかもと思った体験がありました。父と姉の分の荷物を私が担いで登ったんです。つまり二人は空身です。それでも、二人が遅いなって感じたんです。当時陸上でかなり走りこんでいたので、相当足が強かったんだと思います。
 登った八ヶ岳の主峰、赤岳(2899m)は、八ヶ岳で一番凄い、高い山だと父に言われていたので、かなり本格的な山だと思って臨んだんですが、ふたを開けてみると、3人分の荷物を担いで登っても元気で。改めて、山に向いてるなと思ってしまったんです。 

八ヶ岳主峰赤岳:山容がダイナミックかつ美しく、非常に人気の山

 下山してもなお元気で、駐車場から麓の一般道まで、父が運転する車の後ろを走って下りました。登山者が驚いた眼で見ていたのを覚えています。

ーー正直、想像の斜め上を行く元気さでした。私自身も山を登る身だからこそ、齊藤さんの凄さが分かります。

本格的な山の世界へ ー 北岳そしてジャンダルム ー

ーー今年に入ってからは、ほぼ毎週山に足を運んでいるかと思います。加えて、北アルプスや南アルプスといった本格的な山にも何度も足を運んでいたかと思います。きっかけはなんだったのでしょうか。

 昨年登った南アルプスの北岳(3193m)がきっかけでした。この山は、登山口から山頂まで約7時間30分ひたすら登りです。とにかくきつかったのを覚えています。また、初めてのテント泊でもあったんです。テントを張る場所は、山頂近くの山小屋に併設されたテント場だったんですが、遮るものが無いので、風をもろに受けてしまい、飛ばされてしまうのではないかという恐怖に駆られながらの一夜でした。

夢のテント泊。同時に山の厳しさを味わうことにもなった

ーー奥穂高岳を彷彿とさせるような過酷な登山ですね。

 そうですね。けれど、翌朝、隣の間ノ岳(3190m)から見た朝焼けが本当に綺麗で。今までの疲れが全て吹き飛びました。そして、あまりの美しさに感動して思わず涙が出ました。

間ノ岳からの朝焼け:あまりの美しさに言葉を失う

ーー感動的な景色に出会い、一気に山に惹き込まれたんですね。また、今年は、新しい分野として、クライミングにも挑戦されたかと思いますが、山と何か関係があったのでしょうか。

 ありました。今年の大きな目標の一つとして、ジャンダルムへ登るというのがあったんです。日本でも屈指の難ルートで、危険な岩稜帯が続きます。私の憧れのルートの一つで、そこに知人が連れて行ってくれることになったんですけど、無事踏破するためには、クライミングの技術が必要と言われたんです。なので、少しでも安全に登れる可能性を高めるために始めました。

憧れのジャンダルム:槍ヶ岳を背に

ーージャンダルムを踏破したことは、非常に大きな成果だった思います。その後もボルダリングを続けているようですが。

 そうなんです。ボルダリングジムで登っていると、周りの方々が応援してくれ凄く優しいんです。みんな仲間みたいな感覚なんです。そんな環境が楽しくて、いまだに続けています。

最近は外の岩場にも挑戦している

山の魅力 ー 知るほどに増す楽しさ ー

ーー最後に、山の魅力について聞かせてください

 山頂から景色を見ると、すべてのことを忘れられるんです。マイナスな感情はゼロ。そこにはプラスの感情しかない。それに、登っているときは、足元と景色に夢中になっている自分がいる。その感じが凄く好きです。
 平日に、どこの山を登ろうか、どんな装備で行こうかと計画を立てている時間も好きです。北岳みたいに辛い思いをした登山や、山頂へたどり着けなかった登山を経験すると、自分の経験不足や実力不足に気づき、今回は大丈夫かなといった緊張感が生まれるんです。その緊張感がモチベーションになって、しっかり準備をするようになったり、登る山についての勉強をするようになったりします。そうやって山を知れば知るほど、さらに山が楽しくなっていくんです。 

 私は、小学生から陸上競技、そして大学生からはトレイルランニングにも打ち込んできました。結果が求められる世界です。順位が評価につながるその世界は、辛くて、何度も気持ちが破綻してきました。競技を続けるモチベーションが、周りからの評価になってしまっていたんです。だからこそ、自分の中でモチベーションを保てる趣味を持ちたかった。それが山だったんです。今後も、職場の部署や友人関係といった周辺環境が変化していくと思います。それでも、山へのモチベーションはその変化に左右されない安心感があるんです。その気持ちを今後も大切にしていきたいですね。

これからもさらなる絶景を見ていくのだろう

 多くの趣味を持つ斉藤さん。その中でも、山に対して語るときの眼はひときわ輝く。登山に加えてクライミングも始め、今後、どのような登山をしていきたいのかと聞いたところ、「さらに安全な登山をできるようになりたい。より危険なところへ、より安全に行けるようになりたい。」とのことであった。来年の目標は、槍穂の縦走。つまり、大キレット。ジャンダルムに肩を並べる難ルートだ。 止まらない彼女の成長。この先、どんな景色を見ていくのか、楽しみが尽きることはない。

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