2024年5月5日:1廻し

 グラサン男から食事に誘われたとき、最初はすぐに断ろうとした。
 なんかやばそうだし、休日にまで人と会うなんて面倒くさすぎる。そう思って「いやーちょっと今日は……あれで……」と申し訳なさげに言ったさ。
 でもやんわりと断ろうとした瞬間、あんだけ怖そうな巨体がみるみると小さくなっていくように見えた。
 あれ?全身震えだしたし、鼻もすすっている。濃いサングラスのせいで目元は見えないが、泣いているのかもしれない。え、こいつが?この大男が⁉
 このままこの人を下手に刺激した結果、逆上されるとやばいかもしれない。腹をくくろう。
「と思ってなんですけど、やっぱ全部どうでもいいことだったんで是非お願いします!」
 俺は精一杯明るい雰囲気を心掛け、声を張り上げた。もう背中は冷や汗でびっしょりしている。
 するとそれを受けて彼は小さくなった全身が元の巨体に戻った。
「そ、そうか!それはよかった。気を遣わせてしまったなら申し訳ない」
 彼は穏やかな口調で言った。良かった、とりあえず落ち着いてくれたらしい。それにしてもこの人は、見た目に反して言動や態度がしっかりしている。
 最初こそ大声で怒鳴られて驚いたものの、自分が間違っていた時には非を認め謝ってくれる。やや感情の起伏が強い人なのかもしれない。

 一旦別れ30分後、また落ち合うことになった。
 ご馳走してくれるってことはカフェとかレストランだろうか。人と食事ねぇ……。
 「あれ、てか服って何を着ればいいんだ?」
 思えば普段の服は仕事着のスーツと、ゆるゆるの部屋着だ。買い物はコンビニと通販くらいなものだから、人に見せるようの服が必要な機会はなかった。
 俺はたんすの一番下(最も開ける頻度の少ないところ)を開けた。
 ――そこには中学時代に購入した、オブラートに包んで落ち着きがない、正直に言ってクソダサな服がしわだらけの状態で押し込まれていた。

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