2024年5月25日:3廻し

 なるほど、ここはぼったくりバーじゃないことには納得した。
 じゃあここは一体何のお店なんだ?いや、それよりもだ。
「あの美樹さん、俺は一体なぜ突然ここで働かされているのでしょうか?」
「美樹でいいよ。何故って、キッチン担当が一人骨折しちゃって、3カ月のあいだ土日にキッチンやる人が足んなくなっちゃったの。そんな話を聞いてキミは手伝ってくれるって言ったそうじゃない!店長から聞いて私感激しちゃった」
 美樹さんは声を弾ませて語りかけてくる。てか近い近い、俺は自然と一歩後退りしてしまった。
 へえ、見ず知らずの人が困ってるって聞いて手を貸すような成人がいるのかぁ。ふーんで誰っつった、キミねぇキミ。
 ――『君』!?
 何その話。知らん知らん。今日はグラサン男に会って、それでここに連れてこられたかと思ったら、美樹さんに調理服を渡されて着替えるように言われ、メニュー表の品目の作り方を一通り教わって、今に至るまで勤務してたからな。そもそも俺はここの店長なんて知らない。
 その時ベルの音が聞こえた。
 それは入口のドアが開閉されるときになる音である。その扉から、巨漢で、スキンヘッドで目が見えないほどの濃いレンズのサングラスをかけた男が休憩室に入ってきた。
 それはグラサン男だった。そういえば彼に飯を誘われたのに、この店で食事をすることは愚か俺が勤務していた3時間、彼の姿を見ていない。
 美樹さんもグラサン男が室内に侵入したのを気付いた。
「店長!キッチン担当のお見舞いはどうでしたか?」
「店長!?」
 俺は驚きのあまり声の限り叫んでいた。

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