2024年5月26日:2廻し

 うそだろ……まさかあのグラサン男がここの店長だったとは。
 つまりエレベータ前の電話は、ケガをしたキッチン担当を気遣ってのもので危ない話じゃなかったってことか。
 でその電話のあとに頑張るとか言っちゃったから勘違いしたってことか。なるほど。
 俺は無性に頭を抱えたくなった。けれども目をキラキラさせている美樹さんの前でそんなことをするわけにはいかない。
 そうこうしてグラサン男もとい店長から、手伝いの詳しい説明を受けることになった。
「土日のキッチン担当が復帰するまでの間、10月~12月頼みます。とはいえお前さんも平日は仕事があるだろうしな。土日とはいえあんまり忙しくない午後に3,4時間くらい手伝ってもらえれば十分だ。」
店長は申し訳なさそうに腰が低い態度で接してくる。まぁ低くどっしりとした声であるため存在感は全然拭えていないが。
「それくらいなら問題なく手伝えそうですが、ほかの時間の人は足りているんですか?」
「気にかけてくれるなんて、本当に良いやつだな。でも大丈夫だ。他の時間は当面、俺が入ってなんとかするから」
 「そ、それならいいんですけど」
 こういったら大変失礼なんだろうけど、この人がさっきのカラフルなドリンクやパフェを作っている姿ってあんまり想像できないなぁ……。
「短い間だけど、一緒にこの『メイド喫茶』を盛り上げていこうね!!」
 美樹さんは両腕でガッツポーズをつくって声をかけてきた。
 ああ、ぼったくりバーじゃなくってメイド喫茶なのね……。さすがに驚き疲れてもう何も感じなくなっていた。

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