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Eiji Nakayama presentsENATONE —エナトーネ—  濤(とう)CD発売記念LIVE中山英二(bass)北沢直子(flute)武田明美(筝)  ‘24.Apr.21.      at Over The Rainbow IIDA

打ち上げに至って、私は一種安寧な違和感の中にいた。アンコールのあと、皆の前で中山がステージから私を名指して礼を述べてくれたあと、オフステージでおよそ公にしたことのないフォームのピアニストとしての私を高く評価してくださったのだった。私のフリーフォームは「逃げ」だと言って。ただ、私にアーティストとしての凄みがあるとすれば、それはピアニストとしてであるよりも、ライターとして、であると願う。

その時間はライブの演奏にも劣らぬ充実したコミュニケーションの一瞬だった、というと演奏と演奏者のみなさんに対して失礼にもなるが…


さきにハコ入りしていたオーナーと私がいささか危惧していたことはあったが、この日の演奏はそんな逆風をはるかに超えた熱く充実したものだった。

中山の、その日本人としては破格のキャリアとその演奏は、私の記憶では、ジャズであること、いや、音楽であることを超えそうになるほどの溢れかえるほどのsomethin’elseの表出であったと思う。だが今日、仮の言葉で言わせてもらうが、「日本」への「回帰」がある安定をもたらしたような気がした。それは悪い言葉ではない。懐かしくて泣きだしたくなるような日本人のソウル、ブルーススピリットとしての伝統への回帰であるのだから。

ファーストセットは武田の、キメが鮮やかに決まる、作り込んだ曲から。「和」を感じるノリ。中山が太棹風にかき鳴らす。フルート凄い!筝!和でありながらジャジー。フルートと筝のユニゾンばっちり。続いて中山アレンジの童謡。3人でのユニゾンで始まる。何とも密なアンサンブル。ブルーノートをたっぷり使ったフルートと筝のソロ。ジャパニーズモードの「影響」多か?中山のおとこらしい雄弁なソロ。主題フルート。尺八のむら息のよう。続いての北沢の曲は自らの丁寧なバックボーンの解説と細かなメモもあるがここには書ききれない。幼いころの純粋でほのぼのとした思い出とともに見た美しい光景を懐かしく歌った曲。初めて聞くのに懐かしい旋律を北沢がアルトフルートであったかく吹く。筝のアクセントが不思議に、自然に絡む。筝のソロ、どこへといえばいいのだろう、還っていくようなサウンド。その郷愁感は中山にも通じる。AFlソロ。打ち上げでこの形容は中山にきつく叱られたが、ジョージ・アダムスが聴いたら泣いて嫉妬するだろうみごとさ!ダカーポそして誰もが知っているスタンダードのバラードを早いファンクビートで。ベースと筝で始まり、サビからフルート。フルートソロから筝ソロ、ベースが奔放に絡み、キメてフルートソロ、激しい切迫感中山ソロもハイテンション!ダルセーニョ、コーダの頭ごと筝のトレモロ、フェードアウト。続いて武田の曲。あとで確認したことだが、13の弦は12音に対応しているわけではなく、基本的には和旋法のペンタトニックなのだそうだ。興味深い話をいろいろうかがったが、これは私の個人的楽しみとしておく(笑)いずれにしろ曲は伝統芸としての筝から。やがて中山がアルコで入り、そうしてフルート。ベースとユニゾン。ジャパニーズモードのメロディが、西洋音楽教育に毒された私には、陰旋法だか陽旋法だかわからない。これも後で確認したことなのだが、フルートのモーダルなソロが、和旋法とは特に意識していなかったのだそうだ。筝のソロはいり、中山。箏トレモロ。

セカンド。私は一瞬、エリック・ドルフィ、ラスト・デイトのYou Don’t Know What love Isのイントロかと聴いた。だがそれはもちろん私の錯覚で、作り込まれた北沢のラテン語で蝶々を表すタイトルのオリジナルだった。ベースの、私にはサンバにとれたビートのうえで、筝がコードとリズムを刻み、フルートのメロ。筝。ベースが雄弁。4バース交換からダルセーニョ、キメ、コーダ、Fin. タイトルは文筆家としても有名なジュリー・アンドリュースの著作からとられているそうだ。続いて武田のアイヌ語タイトルの曲。筝ソロから中山はいり、そうして北沢はいる。3人でユニゾンのあと、豊かに絡まり合い、フルートソロ。熱狂の北沢。熱い武田。ベースブレイクソロからダルセーニョ、コーダの筝に、やまとなでしこの涙を感じた私だった。続いては武田アルペジオ、中山アルコで始まる。フルートが豊か極まりない。中山のウォーキングともとれるラインにやまとのこころ!中山ソロでかき鳴らす。フルートソロ。筝ソロ。ジャズにとどまらないだけでなく、和にもとどまらない音楽世界!ダルセーニョから筝のトレモロが響き、Fin.最後2曲はあえて曲名を書こう。「いろはにほへと(色は匂へど、と読む)」「濤」。中山オリジナル。「色は...」は広がる筝のサウンドから始まる。武田の「諸行無常...」というヴォイスが入り、盛り上げる。フルートメロ、中山のベースライン!ベース、フルートみごとにユニゾン!筝泣きのソロのあと、「浅きゆめみし、夢、夢」」とヴォイス。さらにアルトフルートソロが泣いて、もうひとつ中山の泣かせるベースラインがかき鳴らす。3人ユニゾンでテーマ、リピート続いてコーダ。MCでこのバンドは熱いと中山が語ったあと、レコ発タイトルの「濤」ビートに乗って中山、武田、そして北沢。キメ。ベース、筝ユニゾン。リズム。フルートただごとではない情熱のソロ!リズム、ニュアンス、デュナーミクはそのまま筝にも持ち越される。中山、さすがのソロ。ダルセーニョからキメ、フルートは和の香り。アンコールは我々年かさのジャズファンならだれもが知っているスタンダードバラードの凝ったアレンジだった。

休憩中、そして終演後、演者と私たちは熱く語ったのだった。いま、ここで始まった流れが、今後のメインストリームになるだろう、と。

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