内向する Yuja wang
Yujaの音楽の「内向性」については、以前シューマンのコンツエルトのとき指摘した。
それはラヴェルの「コンツエルト」の第二楽章にも明らかである。Yujaの「外面的パフォーマンス」と「速弾き」は「内面性の保証」なのではないか?
シューマンという作曲家の内向性については誰もが認めるところであろう。そのシューマンとYujaの音楽が極めて親和性を持つことに、多くの人が気づいているだろうか?美しい内声部、内面からこみあげてくる歌に、いかにYujaが丁寧に耳を傾け、「歌いあげ」ていることか。この華やかなラヴェル、スカルボからでさえ、湧き上がってくるのはエスプリであるよりも内側からの歌だ。
問題なのは「ハンマークラヴィーア」である。私の知る限りほとんど唯一のYujaがステージにのせるベートーヴェンのソナタ!
ここで現れるのは、音楽の構築であるよりも、のちのロマン派たちにもつながっていくだろう、とくに緩徐部に現れる内的な「歌」である。「ベートーヴェン」を聴きたい聴衆は一歩引くかもしれない。だが、Yujaを聴く我々はさらに一歩惹きこまれるのである。ピアノ曲として唯一無二といってもいいかもしれないこの難曲で、「自分の音楽」を成し遂げたYuja Wangに私はあらためて拍手を送りたい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?