25.誕生日
治療に入って すぐ主人の誕生日だった。
主人の住む近くのレストランを予約して
3人でお祝いをしようと集まった。
今までみたことないくらい 髪を短く切っていた。
抗がん剤の作用で抜けていくからと言っていた。
娘は なんとなく私たちと目を合わせないようにしているようで
それは仕方ない。
私は、変にテンションをあげて なんとか重い雰囲気を変えようと
ずっとしゃべり続けていた。
心の中で ”どうか 来年も誕生日のお祝いできますように”
と 祈っていた。
カウンター席に座ったので
お店の人も会話に入り、
おかげで だんだん重苦しい雰囲気が
和らいでいった。
ずっと 娘は 口数が少ないまま 時がながれた。
最後のデザートで
”Happy birthday"と書かれたプレートが乗ったケーキを真ん中において
主人、娘、私 と並んで写真を撮ってもらった。
娘が いつも真中にいる並び順は 不動で、
『誰の誕生日かわからねーな』と
主人が言った一言で 娘が笑い出した。
良かった。
帰り道 コソッと、娘が
『パパに会うのが怖い』と打ち明けてきた。
理由は
”姿が変わって
受け入れられるかわからない”
そうよね。
私も怖い、受け入れられるかわからない。
『私のほうが会う機会多いし、変化わかるから
教えるね。それで、会えるか考えたら?』
と 答えになっていない返事をした。
そんな心配は することがなく
その後 3人で会う約束をしたが
”行くよ”と言っていた娘は
約束の時間になっても現れず、
食事の予約の時間になっても 連絡もとれず・・・。
主人と私は まるで ”罰” 受けたような気持ちで
食事をしたのを覚えている。
主人は 娘が来ないことが残念で
何度も私に連絡しろといったが ”既読”にもならないから
どうにもならないと答えた。
私の頭の中は 1分1秒
そばにいる時間を大事におもう私とは
真逆の行動に ガッカリしていた。
でも 実際にその日は 主人に会わなくて良かったのだと思う。
『髪がなくなっちゃってよー』
その日会った時の第一声。
髪の毛より 肌の質感や色が変わっていて
1週間程
会わない間に 20歳は年をとったように見えた。
一瞬 声を失うところだった。
『頭のかたちきれいだね』
もう なにがなんだかわからないこと言っていた。
こんな感じの”おじいちゃん”になるんだな
神様が 見られなくなるから
その姿を 今 見せてくれたんだと感謝した。
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