麻美の途方もない1日。♯3
ーータクるか?いっその事!タクってやるか?まてまて、結構距離あるぞ?幾らかかるかわかりゃしない。乗って着いたとしても、おデート代が全て吹き飛んで無一文で遅刻してきた彼女なんてどうよ?足りなくて『お金貸して❤』なんてことになったら、あんた、そりゃ、一巻の終わりでしょうよ!
喧しく脳内で騒ぎ散らかす麻美を置いてバスが出る。
11:00
次のバスは11:15
その間にスマートフォンを充電したいとコンビニを探すが、どうもこちらバスターミナル側には近くに無さそうな雰囲気だ。
スマートフォンさえあればすぐに探せるだろうが、そのスマートフォンが使えない。
探している間にバスが来てしまってまた満員御礼じゃあ話にならない。
ーー連絡にステ振りか、向かうことにステ振りか……。んー!!!
「待とう!先頭で待ってたら乗れるだろうし!」
11:11
『きゃー!!!』
バスを待っている後方で女の人の悲鳴。転んでいる中年女性と走り去っていく黒ずくめの男。男の手には女性物のバッグが。
麻美は中年女性に駆け寄って声を掛ける。
「大丈夫ですか?怪我は?」
『怪我は平気……だけどバッグが……』
「待ってて!行ってくるから!」
捨て置けないのが麻美の性。
陸上部の本領発揮である。
「むぅわてぇ!ごらぁ!!」
短距離のスプリントよろしく、凄まじいダッシュ。
「黒ずくめが逆に目立つっつーの!」
それを見ていた周りの人は携帯を手に電話をし始める。
『もしもし、警察ですか……今引ったくりが〇〇駅で……』
「くそっ!なんだこの女っ!」
黒ずくめが息を切らしてきた。
「こんにゃろ……短距離スプリンターだけど、なめんなよぉ!」
気合いの麻美は黒ずくめに食い下がってついて行く。
「ざけんなっ!」
黒ずくめは走るのを諦め、麻美に向かって殴りかかろうとするが……。
「ちょ、急に止まんなあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
勢い付いている麻美は無意識的にジャンプした。そのまま何となく脚を前に出しての飛び蹴りの格好に。
脚と手ではリーチの差は歴然。
まともに麻美の飛び蹴りを黒ずくめは顔面で受ける羽目になった。
かなりの勢いをつけた飛び蹴りに黒ずくめはノックダウン。
ーーあー、やっちまったぁ……。
その後、すぐ警察が来て黒ずくめの男は逮捕された。
警察に連れられて、バスターミナルの中年女性のところへ。
あれこれと事情聴取。
『どうか、お礼をーー』
「いやーあの、そんなのは全然……はっ!?」
時計を見る麻美。
12:35
「あ、あのっ、わたし……」
「署に来てお話をーー」
「いや、行かなきゃいけないところが……」
中年女性と麻美、近くの警察署へパトカーで移動。
13:00
ーーあは……は……。フラれるかも……わたし……(泣)
続