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数学ダージリン。


暗い空に紫煙が舞う。
男の仕事は完璧で正確無比だった。
廃ビルの屋上にて『lucky strike』の煙草を燻らす。
これが男のスイッチでもあった。

上着のポケットから携帯灰皿をスマートに取り出し、煙草を消す。
バッグより組立式のライフルを取り出しスピーディーに組む。

ターゲットは向かいのビルの下方にあるオフィスの社長室。
その奥にある高価な花瓶だ。
男は殺し屋では無い。
依頼で人を殺めることはしないが、ターゲットの最も大事にしている高価なものを破壊する壊し屋だ。

こちらの窓からはその花瓶は確認できない。目視では当然だがスコープを覗いても見えない。
依頼主から社長室の間取りは貰っている。置いてあるものの大きさもわかる範囲で記してもらっている。
社長室ゆえに秘書に常に綺麗に整頓されている。この配置が変わることは、まず無い。

男はターゲットが見えないことにも慌てずにライフルを構えてブツブツと呟いている。
それはどうも計算式のようだ。
一頻り呟き終えたあと、引き金を躊躇無く引く。
消音器が銃声をかき消し、飛ぶ弾丸。
窓ガラスを突き抜け壁に当たり、反射して高価な花瓶へ。
ーー仕留めた。
花瓶は砕け散った。

男は跳弾の名手。
見えない場所でも射抜く。
素早くライフルをばらし、
『lucky strike』を味わう。
仕事後のルーティン。
暗い空へと舞う紫煙。

男のコードネームは……
【数学ダージリン】



#毎週ショートショートnote
に参加させていただきました。

これくらいしか捻り出せませんで。
┏○ペコッ


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暁月夜 まくら
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