親切な暗殺。

スナイパーとして、オレは腕を磨いてきた。
何度も訓練に訓練を重ねた。
動く標的を狙う。
これはなかなか至難の業。
着地の瞬間を射抜くしかない。
動きを見極めるんだ。
ヤツはかなりの手練。
臆病者で察しがいい。
少しの殺気でも気取られてしまう。

気配も殺気も殺すんだ。
無。
無になれ。
ヤツをぶち抜くことだけを考えろ。
必ずヤツは現れる。
動きを読め。ヤツの気配を捉えるんだ。

ーー来た。

さすがの手練。動きが早い。
落ち着け。
動きは必ず止まる。
動き続けることが出来るヤツなんて存在しないのだから。
チャンスは一度だけ。
絶対に外してはならない。
外したら二度とヤツをぶち抜くチャンスは来ない。
完全に警戒され、隙を見せないだろう。

ーー落ち着け。必ず止まる。

ヤツが動きを止めた！
ライフルのスコープは確実にヤツの脳天を捉えている。

ーー今だ。

心を氷のように冷たくして、人差し指は正確に引き金を引いた。

ーーバスッ！！！

正確に放たれる弾丸！

ーーヒット！！

崩れ落ちるTARGET。

『よっしゃああああ！！！！』

スナイパーはスナイパーならぬ大声で喜びを放り出した。

『やったの？あんた』

呆れ顔の妻が後ろから声をかける。
『完璧だよ、ほら！』
テーブル下に落ちている蝿。
夫は『バグアバスター』を片手にドヤ顔だ。
『はいはい、ありがと、スナイパーさん。TARGETの後始末よろしくね』
夫は満更でもない顔で、スナイパーモードに浸っている。
『これほど親切な暗殺もないだろ？』
『はいはい、かっこいい、かっこいい。ご飯にするから早く片付けて』
『あ、はい……』
現実に戻ったスナイパーは、そそくさと妄想の舞台から降りた。

[完]

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【バグアバスター】
塩を弾丸にして害虫を撃てる銃。
ひと昔前に流行ったアレです。
本当に当たると倒せるかどうかは……知りません(笑)

#毎週ショートショートnote
の企画に参加させていただきました。

よろしくお願いします🙇‍♀️