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暗殺者は動かない。【鰯田イノ氏cover小説】



闇を疾走はしった暗殺者『D』

TARGETは全て闇に沈めた。

最期の依頼。
『D』は思わぬ深手を負う。
暗殺者としての最期。
それは彼女と穏やかに暮らしていく始まり。色んな思いが『D』の頭の中を駆け巡って……隙が生まれた。

深手を負ったままTARGETは沈めたが、組織に保護された『D』
治療の為の病院で『D』は余命を知る。
沈黙の病に犯されており、余命幾許よめいいくばくか。
傷の手術の後、『D』は姿を消した。



家に帰り着いた『サクラ』は驚いた。
彼が戻ってきている。
「おかえりなさい……」
『D』は無言で答えない。

『D』はそれから動かなかった。



暗殺者は動かない。

動くべき時を知っているのだ。



サクラは言った。

「あんた……置物みたいね」


そう言って仕事へと出ていくサクラの気配を目を閉じたまま、風の動きで察知した。
サクラの言うように置物のような『D』に暗殺者としての面影は無い。

『D』は鍵の掛けられた音を丸めた背中で聴いた。



『D』の髪が震える。サクラが帰ってきた音。
「ただいまー、って朝からずっとそこに居たの?」

『D』は動かない。

「待っててね、ご飯作るから」

サクラは……悲しかった。


食事も摂ることもなく、動かない『D』

「おやすみなさい」

灯りを消す前にサクラは『D』に接吻くちづけをした。


それでも『D』は動かなかった。
ただひたすらに耳を澄まし、集中を続けていた。
来るべきその時のためにーー。


静寂が耳に傷むほどの真夜中。

暗殺者はその場に居なかった。

動くべき時が来た。



ベランダの引き戸が静かに開き、男が侵入してくる。その男の手にはロープとナイフ。
『D』は戸棚の上から男へ飛びかかった。
己の残りの力を動かずに研ぎ澄まし、この時のために力を爆発させた。

怯えるサクラ。何が起こっているのかわからないが彼が不審者と戦っているのだけはわかる。

『D』の伸ばしていた爪は、侵入者の頸動脈を裂き、鮮血をあげる。
静かに倒れる侵入者。

残りの力を吐き出した『D』はサクラの傍へ寄り添った。

サクラを自分の居た組織から守ること。
これが『D』の最期の仕事。

「しっかり!しっかりして!」
サクラの声が遠くに聞こえる。
『D』は懐から封筒を出し、サクラに手渡した。
話す力まで使い果たした『D』は少し後悔した。

暗殺者は動かない。

彼は今、燃え、尽きたのだ。

サクラの傍らで眠る『D』

暗殺者はもう動くことはなかった。


封筒を泣きながら開けるサクラ。

震える手で書かれた文字。
『逃げろ』
それに続いて教会の名前が記されてあり、ひとつの鍵が入っていた。
サクラは動かなくなった暗殺者を惜しむように見て、意を決した。

教会へと走るサクラ。

教会にある鍵付きの引き出しを見つけて、鍵を挿す。

開いたその中には、巨額の小切手と手紙。

『愛してる』

サクラは泣き崩れたーー。


[完]




こちらの企画に参加させていただいております!
よろしくお願いします。

#カバー小説

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暁月夜 まくら
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