紹介の仁義
有難いことに顧客から紹介を受けることはよくある。
だが法人客を紹介してもらうのは、ちょっとばかりその「赴き」が違うこともある。そんな事例。
なんでも、仕事で使うトラックの整備の依頼先を探しているそうで、先ずは挨拶に行くことにした。それが紹介の仁義!
前以て聞いた話だと随分古いトラックだそうだが、そんなことは別にいい。一番知りたいのは「今まで付き合ってきたであろう整備工場と何故縁が切れたのか」だ。よくよく聞くとどうやら金額面で揉めて新たな整備工場を探しているらしい、
やべえな、ババを引くかもしれない・・紹介してもらった顧客には悪いが、直感的に思ってしまった。
約束の日、当方と同じく小規模の会社だ。駐車場に例のトラックを確認。
年式にして30年近く前だろう、聞いてはいたが予想より相当古い。そしてボロい!
なんか嫌な予感だ。
「バッテリーなど替えたことはない」
「こんにちは初めまして。〇〇さんに伺いました、セキと申します」
我ながら挨拶もぎこちない。
「はいはいどうぞ、これから頼むよ」物腰柔らかい社長は70歳前後、当時の私より30歳くらい上か。世間話もそこそこに、もうすぐ車検の例のトラックを見せてもらう事にした。先ずは状態を見らねばならん。
キーを預かって駐車場へ、そしてエンジンON!! ・・・スターターモーターが回らない、バッテリーが上がっている。
事務所に戻り、その旨を社長に伝えたら「ああ、動かす時はいつもブースターケーブルを繋いでいるよ」との事だった。 いつも?いつもそうなのか?ではバッテリーが上がっていると知ってて私にキーを渡したのか?
「ブースター持ってきてないの?」と社長は言う。
「上がっているのを知ってたら、その準備もして来ましたけど」と私は言う。
エンジンを回さない事には概算のお見積りさえできないから、近々にバッテリー交換してくれませんか?とお願いしたら「バッテリーなど替えたことはないよ」との事だった。 う~ん、なんだか調子が狂う。
それにしてもいくら何でもずっと無交換ではないだろう。
要するにバッテリーを消耗品と思いたくない人だ、この社長は。
「でもバッテリーは替えてもらいますよ。車検場などで上がらせたくありませんから。前の工場はどうしてたんですかね?」
「うん、車検の時は整備工場がバッテリーを貸してくれていたよ。」
・・・そう言う事か。レンタルバッテリーなど聞いたことが無い。
以前の工場は相当なお人好しだな。
「でも今回は貸さないと言われたし、貸すにしてもこれからは金がかかると言われたよ。お客のためにならないことを平気で言ってくるんだよ。困った困った」
動いてもらい、そして貸してもらっているのだから金がかかるのはあたりめえだろうが、と私は思った。
そして今まで無償で過剰サービスしていた側もよくない。
その揉めた全容がわかってきた。
「あの、すみませんが当方ではレンタルバッテリーなどありませんし、寿命を過ぎたバッテリーで車検場にも行きたくありません。交換してもらえませんか」
使えないバッテリーの交換を促すのに「何とかお願いできませんか」とこちらが頭を下げている情けない展開だ。
「いや、替えない。まだ使える」
「・・・そうですか。わかりました。ではご縁が無かったと言う事で」
「あっそう、そうだね」
「失礼しまーす」
私は帰った。
紹介者には悪いが、バッテリー交換さえ渋る人の仕事を受けても後に続かないと思う気持ちが、やはり勝つ。
とりあえずは紹介の仁義は尽くした。と、自分に言い聞かせた。
取り繕うことなく、話す。
帰ってから紹介者顧客にすぐさまに電話して事の全てを話した。
「あのじいさんケチだからなー、悪かったなー」と言っていた。
気を使ってそう言っていたのだろうな。
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