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乞食の耳にイカを詰めて腐らせたもののような臭いのする足を持つ和尚の話 プロローグ


 九月も中頃のことです。

 神戸にある「元井ビル前駅」の南口改札を抜けて、ロータリーから東にケヤキ通りを十分ほど歩いてゆきますと左手にコンクリートの四角い派出所が見えてきます。

 そこは魚の橋うおのばし派出所といって、もとは古い木造の建物だったのですが道路の拡張を期に真新しいコンクリートで建て直されたようです。

 その角を曲がると口縄坂くちなわさかといって五十段程の緩い登り階段になっています。坂を登っていると、六甲山ろっこうさんからやってきたのでしょうか、両脇の林から小鳥の鳴き声が聞こえます。

 口縄坂くちなわさかを登りきると閑静な住宅地が広がる高台となっていて上町台地かみまちだいちと呼ばれています。

 上町台地かみまちだいちに寺は一つしかなく名を鰯田寺いわしだでらと言うのですが、これが酷く寂れた寺で、最後の住職が亡くなって十数年は上町自治会の者たちが手を入れていたようですが、ここ数年はめっきり人も減り、荒れた境内には蜘蛛の巣が張り、お賽銭箱には鼠が巣食うという有り様。

 私は世俗史を下敷きにした都市計画論のレポートを書こうとフィールドワークをしていたところで、過去の資料なんかを求めてこのあたりの古い寺院を巡っていたのですが、鰯田寺いわしだでらの石碑に残された寓話に興味を引かれ、ここに書き起こしているという次第です。

 なにぶん古い石碑でして、現代語ではない上に所々は苔で覆われていて仔細は明らかではありませんが、概ねこのようなことでした。


↓(一)へ続きます。



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