#チョコレート #シロクマ文芸部 1377字
「チョコレート食べて鼻血でるの何故だか分かる?」
頬杖突いてトロンと眼をした彼女はそう言った。
「わからないよ」
と言いながら僕はテオブロミンとポリフェノールの血管作用について考えていた。確かにある種カフェインには興奮作用があるしそれは鼻血と有意的に関連がありそうに思えた。でも僕はあえて言わない。
「チョコレートと鼻血なんて、なんの関係があるのだろう」
チョコレートをかじりながら僕は言った。そう。僕は言わない。彼女の考えを聞きたいのだ。彼女は僕の無知に頬をほころばせた。頬杖突いてない左の頬にちっちゃな笑窪が浮かんだ。しめしめ、教えてやろうではないか。そんな感じで。
お風呂から出たばかりの彼女の肌はシルクのようにツルンと透明でほんのり赤い。ツヤツヤ肌は彼女のチャームポイント。いや外見的な美点をあげればきりがないんだけど、全身つるんと赤ちゃんみたいな肌の彼女は何よりとてもきれいだ。
つるんと嬉しそうな彼女。
「教えてほしい?」
と、ちょっと小声になるのもかわいい。今は僕の家に二人きりのはずなのに、小声になんてならなくていいはずなのに。僕は言った。
「ぜひ聞きたいな」
「ち・よ・こ・れ・い・と」
頬杖外した彼女はちよこれいとに合わせて指を歩かせた。ちよこれいとちよこれいと。僕の手に来るまでに何度かちよこれいとを繰り返し、ちよこれいとのちよこれのとこで人差し指を僕の手にちょんと乗せた。
「いと」
沈黙の彼女に負けていとと言った僕を彼女は笑った。
「きみは堪え性がないんだね。すぐにでちゃう。もっと我慢しなよ」
確かに僕は堪え性がなくてすぐに出ちゃうけど、そんな言い方ってないんじゃないかな。
「いいんだよ。出しちゃって」
どっちやねん。
「あの…鼻血とチョコの」
「ああ。ごめんなさい、そうだったね」
彼女は僕のとなりに座った。彼女の首が僕の方に倒れた。いい匂いのする頭が僕の胸に乗せられた。小さめの胸が僕の肘に当たって手は彼女のやわらかな太ももにホールドされて。
「でちゃう?」
「出ない」
「これでも?」
ちよこれいとちよこれいと。あうう! 僕の太ももで彼女の指が行ったり来たりちよこれいと! 指先でつんつんしたり跳ねてみたりちよこれいとああ! 彼女の指がちよこれいとちよこれいとあああ! そんなムーンウォークとああ―――!
「ごめんなさい。ほんとにでちゃうとは思わなくって」
彼女はねじねじしたティッシュを僕にくれた。
「ウソだ。その後もきみの指は空中ウォークまでしていた。絶対楽しんでいた」
僕は怒っていた。指でなんて惨めだったし、恥ずかしいところを見られてしまったから。
「もう一回する?」
僕の返答を待たずにほんとに堪え性がないんだからと言いながら彼女の目はキラキラしていた。
もう一回って出したばっかだしいやそれはそれで嬉しいんだけどチョコと鼻血の関係を聞きたくって―――いやちょっとちょっと! 待って! いきなりムーンウォークはやめて! また出ちゃうから! 空中ウォークが上手くなってる! 彼女すげぇ! ああああああああああ! 出ちゃう! あああああああ! あああああああ! あああああああ!
鼻血で汚れた僕に彼女は言った。
「ほんとにきみは堪え性がないね。チョコレートと鼻血の関係はもう教えてあげない」
いや、もう十分です。
[おわり]
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#チョコレート
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