#夜光おみくじ
「今日の授業はここまでです。今夜は夜光おみくじの日ですから。お父さんとお参りにゆきましょうね」
学校の鐘が鳴り、みんなめいめいのお家ヘ駆け出していった。今夜は年に一度の夜光おみくじ。お父さんと、子供と、お星さまの夜。ため息のコルネリオは学校を出た。
「コルネリオのお父さんは嘘つきだよ。お星になったって」
コルネリオを走り抜いた子供たちが言った。コルネリオはわんわん泣きたくなるのをぐっと堪えて言った。
「嘘じゃないよ。お父さんは、ロケットで宙に上がったもの」
コルネリオは嘘つき
お父さんも嘘つき
コルネリオの嘘つき
お父さんが嘘つき
子供たちは歌いながら野を駆けていった。
「嘘じゃないよ」
袖で涙を拭ったコルネリオはポケットから一枚の紙切れを取り出した。それは夜空光るベテルギウスまで飛んでいけるロケットの設計図だった。
〝為せば、成るさ〟
走り書かれた父の文字。今夜は夜光おみくじの夜だった。子が、父の背を追いかける大切な日。コルネリオのお父さんが星になった日でもある。父の文字がコルネリオに勇気をくれた。為せば成る、と。
「お父さんに、会いたい」
その夜からコルネリオは父の設計図を元にロケットを組み立て始めた。学校にも行かず、たったひとりでロケットを組み立て始めた。
父の設計図は完璧だった。材料だってお店に売ってるもので作れるように工夫されていたし、燃焼だって魚フライの揚げ油を精製して作れた。子供でも扱える材料でロケットが作れるように工夫されていた。まるで、コルネリオが父を追ってロケットを作ることを知っていたかのように。
コルネリオは設計図に導かれるようにロケット作りに熱中した。父が自分を呼んでいる。遠いベテルギウスから僕を呼んでいる。コルネリオはそう感じていた。
コルネリオがロケットを作り始めて一年が経った。ロケットはついに完成した。ツギハギとボロでできたロケットはお世辞にも美しいものではなかったが、有り合わせの材料で、子供が作ったことを考えると、上出来過ぎるものだった。
夜光おみくじの夜に行われたロケットの打ち上げ。コルネリオは、村の子供たちが見守るなか、堂々とロケットに身を沈めた。
点火の秒読みが始まった。
……3……2……1
精製油に火がつき燃え広がるのにそんなに時間はかからなかった。酸素ボンベが熱で割れてロケットが爆散する前、コルネリオは今は亡き母の姿を自分を見守る群衆の中に見た。母は泣き崩れていた。なぜ泣いているのか、コルネオには分からなかった。
夜光おみくじの夜。
ベテルギウスは、新たな犠牲を得て、冬の大三角にキラキラと希望の光を瞬いていた。こうしてコルネリオは星となったのだ。
[おわり]
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