#エッセイ 「明暗」 (1226字)
インプラントとレンブラントが似ていることに、わたしは今更気がついた。特に、綺麗に入れ替わった歯が素敵な口に白く輝く時、そのコントラストに、わたしはレンブラント、彼のことを思い出すのだ。
彼は、今で言うところのオランダで、パン屋の息子として生まれた。当時、カルロス一世がカルロス・ゴーン以上に調子に乗りまくっていた時代だったから、スペイン大帝国のすみっコぐらし、つまりは今で言うところのオランダは、廃れたシャッター街が軒を連ねるド田舎だった。
そこでは、ヤンキーが隊列を組んで爆走し、軽トラのおじいちゃんが居眠りしながら畑の畦を爆走し、じいちゃん危ないよ免許返納したじゃん! って軽トラを停めようと飛び出したヤンキーが実の祖父に轢き殺されるくらいにクソド田舎だった。
貨幣すら崩壊していた。円はおろか、ペソや、ドルも通用しない。かろうじてジンバブエ・ドルが認知されている世界。もしかしたら、ギャートルズの石のお金なら使えたかもしれない。漬物石か、憐れなヤンキーの墓石として。
ところでおばあちゃんが漬けるぬか漬けの美味しさがぬか床というよりおばあちゃんの働き者の手のおかげだと気づいたカルロス一世は、カルロス・ゴーンから日産の工場を買い取り、おばあちゃんの手の汗を効率よく抽出する機械を開発した。そこでは、おばあちゃんの手から旨味成分を絞るため、孫の肉声を録音したペッパー君が管理者を担うという、マトリックス並の聖飢魔II、いや世紀末だった。
世紀末世界は、ケンシロウを強くもしたが、優しくもした。当時のオランダも市井の人々は優しさで溢れていた。道端では新鮮お野菜が無人販売され、お金の代わりに山で釣ったツヤツヤ岩魚を置いていくおじいちゃんがポケモンのコラッタ並みにそこら中に生息していた。モンスターボール片手にマサラタウンを歩いていたルシータ王女が無人販売で跳ねる美味しそうな岩魚を見つけて、古い暖炉の奥に隠してあった綺麗な石を代金の替わりに置いていった。飛行石が煌めき、無人販売所が宙に旅立つのを、レンブラントは見ていた。しまむらで買ったモンペを着て、牛小屋で糞を拾いながら。
この物語の主人公レンブラントは、聡明な子供だった。街の誰もが彼は歯科医師になって世界史を塗り替えるだろうと期待した。だが、パン屋の息子、レンブラントは、歯科医師にならなかった。芸術家として、明暗のコントラストを大胆に描き出すようになったのだ―――
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さて、ここまで言えば、インプラントとレンブラントが似ていることについて、貴女は納得してくれたと思う。わたしの話は、これで終わりです。もしよろしければ、レンブラントの作品をweb閲覧してくれればとても嬉しい。
輝かしさと暗い晩年が醸す明暗の芸術家。
わたしは、一度も見たことがないのだけれど。
[おわり]