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夜からの手紙 #毎週ショートショートnote




「こんにちは。
 お元気ですか。

 突然こんな手紙を受け取って、大変驚かれたことでしょう。それも今まで会ったことも会話したこともない男から、貴女はさぞ迷惑がっているでしょうね。でも、手紙を送らずには居られなかった。もう長くないのでしょう?

 正直申すと、わたしは貴女に憧れていた。貴女は明るくて美しかった。この世界の全てを照らしていた。暗闇でうずくまるわたしとは正反対だった。

 わたしはずっと貴女に会いたかった。これがわたしの素直な気持ちです。

 でも、それは叶わなかった。

 叶うはずもなかった。わたしと貴女の間には、越えようのない隔たりがあった。いや、もっと素直であれば純粋な好意を貴女に伝えたかった。

 迷惑ですか?
 でも、貴女のことが、好きです。

 先の短い貴女に長い手紙は失礼かと思うのでこの辺りで終いにしようと思います。もしこの手紙が気に入らなければすぐに破り捨てて下さい。

 読んでくれてありがとう。

 さようなら。
 愛を込めて。―――夜より」



 女は浜辺に座っていた。打ち寄せる波が女の足を濡らしていた。太陽は赤く弱々しい陽を照らしていた。

 太陽は寿命を終えようとしていた。核融合に必要な水素が僅かとなり燃え尽きようとしていたのだ。それは完全な闇、永遠の夜の始まり、そして昼の死を意味していた。

 女は夜の手紙を繰り返し読んだ。返事を書きたいと思ったが、女にはもう時間がなかった。

 女は身につけていた指輪を砂に埋めた。夜に愛された昼という女が世界に存在していたことを証明しておきたかった。

 太陽の火が消えると、昼は死んだ。

 闇に包まれた浜辺を男が歩いていた。それは夜だった。昼の名残りを探しに来たのだ。だが、夜は昼が埋めた指輪に気づかず去っていった。

 指輪は消えていた。
 波が海の底深くに持ち去っていた。

 昼と夜。

 それは、決して交わることができない。


[おわり]
#毎週ショートショートnote
#夜からの手紙

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