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やるつもりのなかったことをやってみる

何をするつもりだったかな、とひとまず目の前の豆乳ラテをのぞき込む。もう半分も無い。上澄みのふぁふぁな泡もしぼんで、もう無い。ただ、張り切って頼んだ Lサイズ。その事実こそわたしの今日の誉れ。ご注文 繰り返させていただきますのターンで「いちばん大きいサイズですね」と言ってもらえた誇らしい気持ち、思い返される。

入店したときはMサイズだった気持ちも、しばらく座って本を繰っている間に少しずつ膨れ上がっていって、再びカウンターに向かい追加オーダーですねというタイミングでちょうどLサイズになっていた。のだ。

なんてわたしに心地がいいんだ、ドトール。

たたえ合いたい気持ち。駅ナカ・ドトールの長机に横並びのわたしたち(まばら)。真ん中、わたし。ひとりひとりが登壇して、今日の自分の誉れを発表し合う。
遠慮がちに話す、青カーディガンの女性の
「すごくささいなことなのですが…」
にも、
「いいじゃん、いいじゃん」
と続きを促す。

ひと呼吸置いて
「洗濯物を、昼ごはんのあとすぐに取り込んだんです。」

わあ。

ぱらぱらと拍手、聞こえてくる。隣の長机からも、である。自分の長机の人に対してのみでいいのに。なんてあたたかいんだ、ドトール。

「実はそれだけでは無くてですね」
青カーディガンの女性、さらに遠慮がちに続ける。
「というと?」
わたしが言うより前に、わたしの右隣のギャルの方が体を前に傾けて、促す。わたしも同じだけ体を耳を、前に傾ける。

ふた呼吸 置いて
「畳んで、もとの場所に収納したんです」

まあ。

誉れだねぇ。右隣のギャルの方と頷き合える自分がうれしい。いつもより深いと思われる頷きで、ギャルの方の背中にあった髪がしゃわしゃわ下りてくる。それについてもしゃわしゃわと、うれしくなってくる。思わず立ち上がり、一つ席を飛ばして青カーディガン女性の手を取りにいく。それめっちゃ、誉れですよ。

恥ずかしそうに顔に、わたしの手の無い方の手を添えてのけ反る。わたしも一緒になって、のけ反る。

のけ反りつつも時計はきちんと視界に入っていて、もうそろそろ誉れの時間も終わらねばな時刻。青カーディガン女性としゃわしゃわ髪ギャルに会釈。名残惜しく残りの豆乳ラテ、一気に飲み切る。飲み切りながら、あのギャルの方はなにが今日誉れだったんだろう。惜しみつつ。惜しめる自分がうれしかったりもしながら。

返却口に置いた自分のマグカップが誰のよりも大きくて、小刻みに揺れるうれしさ。しゃわしゃわしている。

今日はそんな日でしたよ。

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