見出し画像

ネタ合わせは上野にて、おおらかな心もち

 恵比寿、て、アルフォートのことかと思っていたよ、ずいぶん前のことだけれど
 あ、絵ビスってこと? うまくないねぇ
 うまいがね、全粒粉であるし
 そういうことを言っているんではないよ
 ああ、そう

 ああ。

 「次は五反田、五反田」

 五反田、というとね
 はい
 立ち食いうどんの街、といったようなイメージがあってね
 ええ、おそらくあなただけですが
 日本舞踊教室の見学に行った際に、一度だけ降りたことがあるんだけど
 へえ、君にそんな趣味があったとは
 その時に立ち食ったうどんが美味くて
 ほう

 ほう。

 山手線は外回り。目白にて一番端の席を得たわたしは、上野を目掛けて各駅に停まりながら着実に進んでいる。外回りの方がすぐに着いたのに、というのには乗車後すぐに気がついた、が、気付かないふりをして。
 そうだな、相手方には有楽町で気がついた、というふうに言おう。もう、どうしようもないところまで来てしまっていたのだ、と。その分の時間で小さくだがギャグをこさえたから見てくれ、と。そう言って、先々週できたものをぱぁと披露さすれば、恨みなし。ということでしばし休もう。まぶたを閉じ、アナウンスの読み上げる、高輪ゲートウェイを聴く。

 「次は有楽町、有楽町」

 まぶたを開ける。その際の微かな抵抗感は、取り込まれる照明の光の鋭さにざぁと破られ、眼は、すぐさま画面の中の「yūrakuchō」を捉える。

 閉じる時は、今まで開けていた時間の分 閉じ方に戸惑っていて、それでいざ開ける時になったらば、閉じていた時間の分 開け方に戸惑う。それはそれは、慣性に則るほかない、人間という生物の、やつ。実にしょうもなである。ああ  しょうもな。

 そして予定調和に
 「ごめん、目白からすぐ着く回りの、逆回りで来てしまった」
 「ということに有楽町で気がついた」
 と、送信。

 すかさず返る
 「もう十五分も経っているけれど」
 「よくきがつかなかったな」
 という、若干 緊張を誘う指摘には、

 「ギャグを、つい考え入っていて」
 で、緩和。

 「全くもってけしからん胡蝶蘭」
 これはスタンプ。相手方からの。で、安心。

 「ごめんなさい夏野菜」
 これはテキスト。もうすぐ夏なので、という、わたしなりの可愛げ。伝われ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?