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【シ擾7】シスターン擾乱篇⑥

敵幹部の1人ククロポーンは斃したものの、<天使の石板>を奪われ、何より<守護兵>のショーンを喪い、暗い雰囲気に包まれる一行。
 
そんな中ガイアーは1人、ククロポーンとショーンの遺体を雪の上に寝かせ、腹の上で両手を組ませていた。
 
「仕方ないさ。ギルスと<氷壁の記憶>の人たちには正直に事情を話そう」
 
と、ガイアー。
 
「でもアニキ。オイラたちは<氷壁の記憶>の本部の場所が判りませんぜ。案内役が居なくなった今、どうやって目的地に辿り着けば」
 
とのバートの台詞に。
 
「あ、それならたぶん大丈夫だ」
 
そう云って、アルフレッドが小さな紙片を取り出し、仲間たちに見せる。
 
「これは?」
 
「これはショーンが死の間際に押し付けてきた掌の中にあった。怖らくは<氷壁の記憶>本部への行き方を示した覚え書きだ」
 
皆が紙片を覗き込む。
 
「なるほど。確かに山中の進み方を示してるっスね。これなら辿り着けそうっス」
 
「でも、何でこんなものを用意していたんだ?」
 
「それは僕も思った。ひょっとしてショーンは、ここから先案内できなくなるような事態を、予期していたのかも知れないね……」
 
 
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<乗馬>技能を持つアルフレッドが御者の代役を務め、一行を乗せた馬車は何とか<氷壁の記憶>本部施設、とおぼしき場所へと到着した。
 
ショーンとククロポーンの遺体は荷台に載せて運んできた。この外気温なら腐敗の心配はないし、ククロポーンの遺体は敵の情報を知る手掛かりになるかも、と考えたからだ。
 
外門を守っていた<守護兵>に名前を名乗り事情を話すと、既に承知していたのか。
 
「こちらへどうぞ」
 
と、施設内部へと案内された。
 
そうして通された奥の会議室とおぼしき部屋。ギルスと、そして長い白髪と白い髭の人物が待ち構えていた。
 
「ギルス!!」
 
「アルフレッド! みんな! 無事だったか」
 
お互いの無事を確かめ合い、アルフレッドとギルスは固い握手を交わす。
 
「良く来たの若者たちよ。儂がアールじゃ。積もる話もあるじゃろうが、まずは座るが良い」
 
と白髪の老人アールが椅子を勧め、一行は会議室の卓に着く。
 
「チェリーはどうしたんだ? 姿が見えないようだが……」
 
アルフレッドが周囲を見回し、ギルスに問うと。
 
「ああ。あいつは事情があって心身に大きな負荷がかかってな。今はこの施設の別室で休ませて貰っている。ちょっと前まで、俺も同じ状態だった」
 
「そうか……。無事なんだな?」
 
「ああ。大丈夫だ」
 
アルフレッドの問に、ギルスは力強く頷く。
 
「それで、<天使の石板>は無事運べたのか?」
 
「それが、実は……」
 
 
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アルフレッドは、<氷壁>に至る道中で起きた数々の出来事について包み隠さずすべて子細に説明した。
 
「<守護兵>の中に裏切り者が……!? そのせいで<天使の石板>を<破壊の翼>に奪われてしまった、と云う訳か……」
 
ギルスが悔恨の表情を浮かべる。<守護兵>に<氷壁>本部までの道案内をさせようと提案したのは、他ならぬギルスなのだ。
 
「代わりに、と云っちゃあれですが、敵の1人は退治しましたぜ。アニキが」
 
「それは確かにお手柄だ。あのシャロッツの[見えない腕]は対処のしようの無い厄介な能力だったからな。だが、これで<破壊の翼>の連中はあの莫大なエネルギーを秘めた石板を兵器として使ってくる訳か……!」
 
バートが語るガイアーの戦果を認めつつ、今後の戦局についてギルスが頭を悩ませていると。
 
「いや。奴らは<天使の石板>は使えんよ」
 
あっさりとアールが云う。
 
「え!!!!!?」
 
驚く一同。
 
「ど、どう云うことだ団長!!!?」
 
ギルスが掴み掛からん勢いで問う。
 
「そもそも、3枚の石板とは一体何なのですか? 何故<破壊の翼>は石板を手に入れようとするのです? 石板を使って、一体何をしようとしているのです? 僕……私たちは、基礎的な情報をあまりに知らなさ過ぎる」
 
アルフレッドが、根本的な質問をアールに向ける。
 
「ふむ。そうじゃの。ギルス君とチェリー君もいずれ理解してしまうことじゃし、石板についてもきちんと話しておいた方が良いかの」
 
「…………?」
 
『いずれ理解してしまう』。アールがとても気になる云い回しをしていたが、とにかく今は彼の説明を訊くことを優先する。
 
「このシスターン島を遥か上空から見下ろすと、巨大な<龍>の形をしておる。何故だか判るか?」
 
アールが質問をしてきた。
 
「<龍>の形!? そうなのですか?」
 
「ああ。理由はカンタン。何のことはない。この島は、巨大な<龍>の躰の上に形成されているからじゃ」
 
「えっ!!!!!?」
 
あまりに唐突で荒唐無稽なアールの話に、絶句する一同。
 
「それって、<天空の龍の島>みたいなもんか? オレたちは、<龍>の死体の上で街や国を作り生活しているってことか?」
 
ガイアーの問に。
 
「死体じゃないよ。生きとるよ。尤も、決して眼醒めぬよう封印はされとるがね」
 
「えっ!!!!!?」
 
再び絶句する一同。
 
「かつて、最も尊き<源人>と<龍>と<天使>が<源初の創造神>とともに旅立った後の時代の話じゃ。伝承に曰く、1体の最強<龍>が狂気に冒され、同胞たる<龍>たちに対し殺戮の限りを尽くした。このままではいずれ命と云う命のすべてが刈り獲られてしまうと危機感を覚えたいにしえの三者は結束し、それぞれの種が持つ力の結晶を創り上げ、<狂える龍>の封印に成功した。その封印された<狂える龍>と云うのが……」
 
「シスターン島を形作る<龍>、と云うことか?」
 
アールの語りをガイアーが引き継ぐ。
 
「ご名答。そして<狂える龍>を封印した、いにしえの三者が持つ力の結晶と云うのが……」
 
「3枚の石板……と云うことですか」
 
アールの話を、今度はアルフレッドが引き継ぐ。
 
「だが、俺はその説には懐疑的だな。確かに石板の持つ力は、俺らの尺度、物差しからすれば驚異的でかつ脅威的だ。だが真なる<龍>の同胞たちを次々に屠ったような規格外の<龍>を封印できるような力を秘めているとは、悪いがどうしても思えない。仮に石板がそれだけの力を秘めていたとしよう。ウォルターと云う男がどれだけのポテンシャルを持っているのか知らんが、石板のそれほどの力を扱いこなせるとは到底思えん。力に殺されるのがオチだろう」
 
アールの話を訊いた上で、ギルスが自分の意見を一気に述べる。
 
「……ま、実のところ儂もギルス君の意見に概ね賛成なんじゃ。石板がいにしえの三者の、それも強大な力を秘めているのは確かじゃ。が、伝説の最強<龍>封印の鍵と云うのは、いささか大言壮語が過ぎるじゃろうな。まして3枚揃えればかの<狂える龍>の封印を解くことができると云うのも、眉唾じゃな」
 
アールがそう云って肩を竦める。
 
「ウォルターの奴も同様じゃろう。別に石板に伝説級の力を期待している訳ではあるまい。ま、それでも儂らと事を構えるためには充分過ぎる力を秘めている訳じゃしな」
 
「そう! そのウォルターです! アール団長、先ほど貴方は<天使の石板>を<破壊の翼>の連中は使えないと云った。一体、どう云うことなのですか?」
 
アールがウォルターについて言及したところで、アルフレッドがかねてよりの疑問を投げ掛ける。
 
「ふむ。<天使の石板>にはふたつの使用条件があるのじゃよ。ひとつはその名が示す通り、<天使>と契約した魔術師であること。もうひとつはこの本部施設にある<記憶の間>にて、<氷壁の記憶>開祖の記憶を得ていることじゃ」
 
「それって……」
 
「ふむ。<記憶の間>には、<氷壁の記憶>歴代の師団長のみが入ることを許される。つまり現状、<天使の石板>の使用資格を得ているのは儂ひとりと云うことじゃ。…………つい先日まではな」
 
アールのその言葉に、アルフレッドたち3人はギルスの貌を見る。
 
「そう。ギルス君とチェリー君も、条件を満たしてしまったのじゃよ」
 
「ま、実感はないがな」
 
そう云って、肩を竦めるギルス。
 
「一方でウォルターは既に<悪魔>と契約した邪術師じゃ。そして奴の一味の中にも、無論<記憶の間>に入ったことがある者はおらん。ゆえに奴らに<天使の石板>は使えんのじゃよ」
 
「そう云うことか……」
 
納得するアルフレッド。
 
「でもでも、じゃあ何で連中は、自分たちで使えもしない<天使の石板>を奪っていったんスか?」
 
バートが新たな疑問を呈示する。
 
「<龍の石板>は真なる<龍>の血を引く者にしか使えんからな。間違いなくウォルターたちの本命は<源人の石板>じゃろう。<源人の石板>の使用条件は<源人の子ら>であること。早い話が誰にでも使えるのじゃよ。儂にも、おぬしらにも、そして勿論ウォルターたちにもな」
 
アールが<源人の石板>について説明すると。
 
「<源人の石板>? だからじゃあ何で、奴ら<天使の石板>を……」
 
バートが尚も同じ質問をすると。
 
「奴らが<源人の石板>を手に入れたら、アール団長が<天使の石板>で対抗するだろ!? そうならないよう、奴らは最初に<天使の石板>を確保したんだ。<氷壁>側の対抗手段を奪うためにな」
 
ギルスが割って入って答える。
 
「あっ…………」
 
バートがようやく、敵側の意図に納得する。
 
「こうなると<氷壁>側の取るべき手段はふたつだ。ひとつは奴らから<天使の石板>を奪還する。もうひとつは奴らより先に<源人の石板>を確保する」
 
とのギルスの提案に。
 
「<天使の石板>は現実的ではないの。怖らくウォルターが大事に抱え込んでいるだろうからの」
 
「となると<源人の石板>争奪戦ですか」
 
アールが選択肢を1つ潰し、ギルスが合意する。
 
「ちょ、ちょっと待ってくださいっス! ギルスまさか、<破壊の翼>との石板争奪戦に参加するつもりっスか!?」
 
不穏な空気を感じたバートが、慌ててギルスに問う。
 
「ん……? ああ。そのつもりだ。もう他人事と云う訳でもないしな」
 
「そんな!! なんでですか!? オイラたちは<氷壁の記憶>の一員ではないし、<破壊の翼>と闘わなければいけない理由だって無いじゃないスか!?」
 
尤もなバートの意見。だがギルスは。
 
「実は……俺とチェリーは、<氷壁の記憶>に入ろうと思うんだ」
 

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