自分のメンテナンスをする
母が亡くなってからどうも自分の調子を取り戻せない。納骨が終わっても元に戻らない。ある日、ふと鏡を見たら悲しそうな顔をした白髪のおばあさんが映っていて、ギョッとした!それが自分だったから。
久しぶりに美容院へ行く
白髪のままでいようと思っていた。前髪の、なぜか右側だけが白髪。でもそのうち全体が白くなるのだから、放っておこうと思っていたのだ。
白髪だけなら問題はない。白髪と表情の暗さが掛け合わさった時、とんでもない状態になっていた。
私がいつまでも泣いて、身だしなみもきちんとしなかったら、母が心配するかもしれない。それは良くない!
美容室に行った。前回、髪を染めたのは1年3か月前とわかりビックリ!白い所だけ染めようかと思ったが、「全体を染めた方が違和感がなくてきれいですよ」との美容師さんのアドバイスに素直に従う。
これまで髪は一つ結びで、前髪が伸びたら自分で切っていた。今回は前髪カットもお願いすることに。
なんだか好い感じになった。自然と笑顔になる。天使の輪も健在だ。
エステを受ける
母の介護生活では、楽しくお喋りもするし、笑いもした。見舞客も来るので基本的に良く喋りよく笑う生活だった。
ところが母が目の前から急に居なくなって、悲しくて寂しくて涙を流すことが多くなった。百か日までは泣いても良いや、と思うけどテンションの下がり具合と顔の筋肉の下がり具合でさらにテンションが下がる、という悪循環。お喋りもしないし、笑いもない。出るのは涙と深いため息だ。
一緒に居る夫に申し訳ないと思う。しかし、彼も一緒に悲しんでくれている。7か月一緒に暮らしたから思いも強い。その気持ちに甘えている。しかし、このままでは良くない。
そんな時、知り合いのブティックからお誘いのハガキが来た。
最近、エステも始めたらしい。最新の機械とエステティシャンを入れたことがお知らせに書いてある。よし、エステを受けに行こう。
早速、行ってみた。とにかく気持ちが良い。肩と顔がほぐれていく。体全体が温かくなって、気持ちも温まった。
お肌がピカピカになって、笑顔になっていく。
心療内科に行く
全身の神経が過敏になりすぎて、ちょっとした刺激が辛くなった。何でもないのにチクチクしたり、痒くなったり、それで眠りの質が悪くなったり。何もないのにモゾっとしてギョッとする。そのことに疲れてしまった。
夏にムカデに刺されたことと、母が亡くなったショックが原因に違いない。かなり辛くなったので心療内科を受診した。
そこでの、先生のお話がおもしろいなと思えた。
「母親を亡くした人はほとんどがそうなります。」
(私みたいに悲しみに暮れて元気を失くす、という状態)
「そうなるのは年齢は関係ありません。」
(私みたいに64歳でも悲しむ、ということ)
「父親を亡くすのとはワケが違います。そういうものなんです。」
(父親がどういう人だろうとあまり関係ないらしい)
「今はまだ、お母さんの記憶が強く鮮やかです。でも時間と共に写真の色が薄くなっていくように、お母さんのことが思い出になっていきます。」
(思い出になっていく、というところが何だか切ない。キュンとする。)
「多分、何もしなくてもこのままで少しずつ落ち着いていくでしょう。なぜならこれから季節が落ち着いてくるからです。」
(私が辛かったのは、ムカデに刺されたことと、母が亡くなったことと、そのショックの最中に季節の変わり目が来てトリプルでダメージを受けたことらしい)
とはいえ、早く辛い状態を抜けたいし、眠れないのもきついので先生との相談で漢方薬を飲むことにした。どうしても眠れずにきつい時の薬も5粒もらった。
5粒か!先生は漢方薬で気持ちも落ち着いて眠れるようになる、と思っていることがわかる。
「大丈夫、大したことない」と言われているような気がする。
人と話す
ある人との会話。
「お母さんを亡くしたらしばらく引きずるよ」。
(私)「どのくらい?」
「私は8年。私だけでなく、いろんな人からそんな話を聞くよ。7回忌をしたらやっと少し落ち着いた。そんなものらしいよ」。
「そんなものです」と言った医者の言葉が蘇る。
理屈では説明できないことなのだ。みんな母親の体内から生まれ出たのだから、何かわからない強い絆とか、自分の一部みたいな感覚があるのかもしれない。絶対的な何かが。
だから母親を失うことは自分の一部が無くなるような、特別な悲しみがあるような気がする。
いろんな人の話を聞いて、なんだか少し落ち着いた。そういうものなんだ、と思えると、安心できた。「自分は心が弱いのか?甘えているのか?」と考えていたから。
世の中には理不尽に命を奪われる人もいる。残された家族はどんな思いで生きているのだろう、と思うと苦しくなる。私たちは幸せな看取りができたというのに、こんなに悲しんでいる。
でもそれと悲しみはやはり別なのかもしれない。
いまからは自分の見た目と心のメンテナンスをしていこう、と思っている。
最後までおつきあいくださり、ありがとうございます。
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