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母のそばで♡大丈夫と安心篇

母はよく「あんたがいるから安心♡」と言ってくれた。
それは私にとって最高のほめ言葉だった。

95歳で父の所へ旅立って行った母。末期の肺ガンと言われながらも毎日をちゃんと生きていた。私は母に「安心」をちゃんと届けられただろうか?


苦しい時は

苦しい時や痛い時は痛み止めを飲む。初めはなかなか飲もうとせずに、説得に苦労した。母はなぜか、ガマンしようとする。
「飲もうよ、大丈夫!先生がお母さんの身体を考えて処方したんだから、怖いことないでしょ?痛い時は飲むように言われてるよ。」
「そのガマン、意味ないから!早く楽になって楽しいこと考えようよ!」と言い続ける。

やっと薬を飲んだ後は血圧を計る。
大丈夫!血圧はいつも通り!大丈夫だからね!」
薬が効くまでマッサージをする。母は「気持ち良い~、ありがとう」と言って眠る。

訪問診療の時、苦しかった時の報告を母が先生にする。
「この子がいつもそばに居てくれるから安心です。この子が大丈夫って言うから『あぁ、自分は大丈夫なんだ』と思うんです。びっくりするくらい落ち着いているから安心するんです」。

先生は「すごい信頼関係だ」とほほ笑む。

大したことない!

トイレに立った母がなかなか戻ってこないから、気になって酸素チューブの行方を見る。トイレではなく、洗面所までチューブが伸びている。洗面所に様子を見に行くと・・・。

母は椅子に座って宙を仰ぎ見、涙を浮かべて放心状態だ。びっくりして「具合悪いの?」と聞くと静かに首を横に振る。でも、ただ事ではない様子。

泣きべそをかきながら言うには、トイレで着ているものを汚した、と言うのだ。どうにかしなくっちゃ、と思うほどに焦ってしまったという。

この世の終わりかというような雰囲気から、とんでもないことになったのかと心配した。母の身体を確認すると、大したことはない。

身体を拭いて、きれいな肌着とパジャマに着替える。

「なんだ、大したことないよ。あんまり深刻だからびっくりしちゃった。汚れたら洗えば良いし、汚れが落ちなかったら捨てて良いよネ。大丈夫!大丈夫!!何も気にすることないよ」。今にも泣きそうな母を抱きしめて繰り返し「大丈夫だから!」と言う。

母の腕をとって、ベッドまで進む。足元もフラフラだ。なんとか辿り着いて寝かせる。私から見ると大したことないことも、母にはショックが大きいようだ。自分がどんどんいろんなことができなくなっていく、と思うのだろう。

手を握って、「何も心配要らないよ。大丈夫!」と繰り返し言うと、母は「ありがとう。あんたが居るから安心」と小さく微笑んで眠った。

母の好きだったジャスミン

自分のためです!

母が注文した果物が届いた。毎月、何が来るのか楽しみにしているヤツだ。振込用紙も入っている。

母はお金と振込用紙を私に預けた。「コンビニで払ってくれる?」というのはいつものことだ。買い物のついでに支払いをする。お釣りとレシートを母に渡すと「ありがとう」と言って受け取った。

しばらくして母はまたお金を持ってきた。「ごめんね、払ってくれたとね」。えーーっ?「お母さんから預かって払ってきたよ、私は出してないよ」と言うと母の顔がくもる。「お金を預けた記憶が全く無い!」と言う。いやいや、預かったから!!言えば言うほど、母の顔色が悪くなっていく。「だめ、お母さんは記憶がない、認知症になったかもしれない」と泣きそうになってベッドに戻った。

「忘れることは誰にでもあるよ、大丈夫!心配ないから!」
「しょっちゅう大事なことを忘れるわけではないでしょ?」
「お母さんの記憶がすこーし曖昧になっても、私は二重にお金を受け取ったりしないから大丈夫!だって、そんな事したら地獄に落ちるよ!私は極楽に行きたいから、自分のために、悪いことは絶対にしません!!だから大丈夫!!お母さんが何か忘れても私がちゃんとするから大丈夫!

母の手を握り、目をみつめて真剣に話す。母は「あんたが悪いことしない人間ってことは、お母さんがよーく知ってるよ」と微笑んでくれた。そして、安心したように眠った。


母がわが家で育てたサンパラソル

彼岸花が教えてくれた

一緒に何度も危機を乗り越えてきた。「大丈夫よ!」と言い続けたこの7か月。しかし大丈夫ではない時がとうとう来てしまった。

母が旅立ってから何日目だっただろうか。家の周りを掃除していると、庭の片隅に彼岸花が一輪咲いていた。ここに彼岸花って植えてないけどなぁ。不思議に思った瞬間、ハッとした。

お母さん、無事に向こうの世界に着いたんだ!
ピーンときた。
良かったぁ。無事に着いたのね、と思ったら何だかすごく安心してあったかい気持ちになった。


意外な所に咲いた彼岸花

幸せのおすそわけ

母の旅立ちから3週間ほどたって、訪問診療の先生とお話しする機会があった。母が私の家にいるならお線香をあげてくださるつもりだったろう。

先生によると「お母さまはいつも『幸せです。安心して過ごしています』と仰ってましたねぇ。実はぼくも幸せをおすそ分けしてもらっていました。すてきなお母さまでした」。

先生も看護師さんも、訪問看護の看護師さんもみんな、母を患者としてだけでなく人生の先輩として敬意をもって接してくださった。

母がいたから知り合えた人たちだ。自分の仕事に誇りを持って頑張っている姿が眩しいほどにステキだった。


私は、抱えきれないほどのしあわせを母からもらった。だからこれからの人生もきっと大丈夫!母や父から見守られて安心して生きて行こう!


母はバラに話しかけていた

最後まで読んでいただきありがとうございました♡






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