「順徳院」

「順徳院」
藤原真由美

承久の乱で流罪となった三人の天皇の一人、
佐渡に流された順徳院を扱った小説です。
承久の乱は幕府と天皇の力関係が完全にひっくり返るという日本史上超重要な出来事です。
その首謀者である後鳥羽上皇はさておき、
その息子の順徳院の知名度や影の薄さと言ったら、
「表舞台から完全に姿を消した」
と言っても過言ではないほど。

この本は、そんな順徳院にスポットを当てることで、権力闘争という次元からは計り知ることのできない、日本の精神史とでもいうような天皇のあり方が描かれています。“表舞台”であったはずの北条氏は散り散りとなり、“消えた”はずの順徳院が佐渡に残した能神楽の文化は今も脈々と受け継がれているのです。

一般的に武士は身体の扱いが上手く、貴族は不得手であるという印象があります。しかし、佐渡での院の思索に触れるにつれ、その五感がいかに素直に自然に向かって開かれているのか、その伸びやかさを感じられました。今風に言えばセンスオブワンダーというか。感度が高いのです。
武士とは身体を使う意味そのものが違う、というか。

院の和歌には、そんな感覚を分かち合える、同レベルの感度・教養の者たちと離れていることの寂寥感が滲み出ています。権力から離れたことに対する恨みつらみというものは、その寂しさに比べれば問題にもならなかったのかもしれません。歴史の“表舞台”とは本当はどちらなのか。

800年近くを経て、このような想いがどのように土地に遺っているのか。佐渡=金山くらいの拙いイメージでしたが、6月には当時から伝わり続けてきた能舞台が開かれるということで、実際に見てみたいなと思いました。

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