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【展覧会感想】東京ステーションギャラリー『テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする』生活・暮らしのデザインで世界を変えたデザイナー
東京ステーションギャラリー『テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする』
会期 2025年1月5日まで
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東京ステーションギャラリーは、東京駅丸の内北口改札(神田駅寄り)を出た目の前にあります。東京駅の建物内で、美術館の広さは中規模。満足感もあり、かといって巨大美術館のように疲れることもない、丁度いいボリュームです。
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デザイナーの美術展とは?
テレンス・コンラン(1931-2020)は、ホームページによると「Plain, Simple, Useful(無駄なくシンプルで機能的)」なデザインが生活の質を向上させると信じ、個人の生活空間から都市、社会までを広く視野に入れ、デザインによる変革に突き進んだ デザイナーとのこと。
私は美術館には比較的よく行く方ですが、絵が好きなので絵画展に偏っています。現代デザイナーの展覧会に行くのは初めてでした。
美術館では、絵画展ならもちろん絵が、仏像展なら仏像が展示されているのは分かります。また、美術館によっては古代の壺が展示されていたり、港区白金台にある「松岡美術館」のように、様々な芸術品を収集していた資産家が作った美術館の場合、例えば昔の中国で作られた壺や器などが展示されていたりします。
ファッションに歴史的影響を与えたファッションデザイナーの展覧会の場合は、マネキンやトルソーに衣服が着せられて展示されています。それは分かります。
しかし、100年も経過しておらず、アートとして歴史的淘汰はまだされていないであろう現代デザイナーの展覧会を美術館で行うというのは、どういう意図なのか? そこに興味がありました。
一人のデザイナーが世界に影響を与えていく過程
『テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする』展は、ごく一部のフォトスポットを除けば写真撮影が禁止でした。
冒頭はデザイナーらしく、彼が手掛けたテキスタイルデザイン(オリジナルの柄)や、商品としてデザインしたシンプルな食器。椅子や机などの家具が展示されていました。それらは現在価値が上がり高価なブランド品になってはいるようですが、普通に流通して販売されています。
序盤は日用雑貨や家具などが単品で展示されています。しかし展示内容はすぐに、それら実物を組み合わせ配置した展示と写真、無数の雑貨商品を掲載したカタログなどの展示になります。
美術館ですが、見た目はだんだんと、理想の生活空間を演出した住宅展示場や、東京ビックサイトなどで行われる雑貨や家具の展示会のような感じになっていきます。最初に凄みを感じたのは2章の以下の展示です。
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https://bijutsutecho.com/magazine/news/report/29688/pictures/6
これは、コンランが立ち上げた「ハピタ」という小売店の売り場を再現した展示です。一見、無印良品のような普通の雑貨屋に見えるかもしれません。
しかし、このようにデザインイメージを統一させた同一規格の商品を大量に並べる店舗づくりは、コンランが始めたやり方だそうです。
つまりコンランは、個々の食器や家具を設計デザインするだけではなく、その売り方や、買った人が家で組み合わせて生活するところまでデザインした。そしてその方法/考え方は世界中に普及。今では当たり前になったということ。我々が普段買い物している雑貨店などは、全てコンランの影響を受けている。つまり現代人の生活はコンランの影響を受けている。ということになります。世界を変えたデザイナー、ということです。
このように、当展覧会は、家具などの単品を見せるだけの展覧会ではありません。一人のデザイナーが個々の製品をデザインしていった延長として、それらを組み合わせた人の生活そのものをデザイン/プロデュースするようになる過程と影響を展示/解説しています。
雑貨店だけでなく、3章「食とレストラン」ではコンランが経営/プロデュースした多くのレストランを紹介。そして4章「バートン・コート自邸」では、自身の住居/仕事場を再現。自身がデザインしたものだけでなく、コンランが選んで使っていたものも一緒に展示しています。
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そして生活様式から建築プロデュースへ
コンランは、小売店からレストランと、1つのモノを作るデザイナーから、空間やサービスをプロデュースする事業家として、「デザイン」の影響力を広めていこうと試みます。
また、そのセンスや哲学をまとめた書籍80冊以上にも携わります。この展覧会では、それら書籍の多くも手に取って閲覧することができます。その一部は最後の物販コーナーで販売もされていました。
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さらにコンランのデザインは部屋から飛び出し、建築そのものの事業も手掛けるようになります。日本の建築も手掛けており、一般的に「六本木ヒルズ」と認識されている、1本のビルの横にあるオレンジ色の二つのマンション「六本木ヒルズレジデンス」も、コンランの会社が設計しているそうです。
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「高級賃貸.jp」から引用した写真
https://www.kokyuchintai.jp/rent/detail_90.html
今となっては、高層マンションそのものが成金の虚栄の象徴みたいなマイナスのイメージがあります。J・Gバラードが1975年に出したSF小説を原作とした映画『ハイ・ライズ』(2015年・監督 ベン・ウィートリー)でも、停電で無法地帯となった超高層マンションが、資本主義と階級社会への批判として描かれていました。
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超高層マンションというものの存在自体が、はたしてコンランの「生活の質を向上させる」デザイン哲学と合っていたのかは疑問が残ります。しかしそれは、超高層マンションを発注した森ビル側、そしてそれを受け入れている日本人の考え方が成金思想であるという問題です。建物として眺める分には、六本木ヒルズ一帯の中では唯一のかわいらしい、ほっとするデザインではあるように思います。
デザインで世の中を良くしていく、という意志
今回の『テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする』展に行き、私はコンランの「デザインで世の中を良くしていこうとする意志」のようなものを感じました。
この考え方は、少し前に記事を書いた本『「ふつうの暮らし」を美学する 家から考える「日常美学」入門』(青田麻未、光文社新書、2024.6)に書かれていた、私たち一人一人の日常生活を観察し、自分の家について気にかける。「住む」「暮らす」ということを本気で考える。その感性の延長として、社会/世界のあり方を考え、世の中を少しずつ良くしていこう。というメッセージと共通するものがあります。
良いデザインを追求していったデザイナー、コンランと、哲学の一分野「美学」を研究している博士である青田さんが、同じようなメッセージに至っていることに、シンクロニシティを感じます。
本の記事の結論でも書きましたが、生きづらい世の中を少しでも良くしていくには、我々ひとりひとりが、身の回りで使うモノや生活空間についてよく考え、まずは自分の生活環境を少しずつ良くしていくことから始めるのが重要なのかもしれません。
『テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする』展は、世界を変えた超デザイナーの意志を感じることができる、優れた展覧会です。みなさんもぜひご覧ください。
公式ホームページ
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↓ 私の書いた展覧会や読書、映画感想などのまとめです。よろしければこちらもお読みいただけると嬉しいです。
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