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オマル・ハイヤームの酩酊

ふと浸る秋の日和
紙の香りで思い出す
出会いは暗がりにむせぶ書庫
一人称が僕から俺に変わる頃

知識もなく
経験もなく
詩人を名乗る気概もなく
笑われる度胸もなかった

命について
人生について
自分について
書きたいことは沢山あるのに

怯えていた
誰かの哄笑こうしょう
怯えていた
普通の枠から外れることに

笑われた
愛について語るだけで
嗤われた
詩を書いているというだけで

幼さ故の不寛容
異物を許さぬ鉄の社会
幼さ故の狭い視野
自由に生きる術など知らなくて

そんな時に恋をした
書庫の片隅の横たわる
著者も表題も知らない本に
たったの四行で落とされた

悩んでいた
命について
人生について
自分について

叫んでいた
生きる楽しさを
老いていく虚しさを
酒が如何に美味いかを

悩めばいい
考えればいい
叫べばいい
偉大な先駆者がそう言ってくれた気がして

だから、私はここにいる
今はもう詩人を名乗れる
あなたには遠く及ばずとも
悩んで、考えて、叫んでいる

あなたのようにはなれないだろう
そんなことは分かっている
それでも、目指しているものがある
酒に弱い私で至れるだろうか

あなたの愛した
オマル・ハイヤームの酩酊に


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