呼吸根
完全な暗闇に包まれた世界。
誰かがどこか遠くで話している。
声は聞こえても姿を見ることは出来ない。
得体の知れない何かにいつも怯え
鋭く尖った感情で自分の身を守ろうとする。
そしてそれらはなんの役にも立たない。
すべて自分に突き刺さるだけだった。
まるで歯が立たない。
自分にはもう何も残っておらず空っぽだ。
男は考えるのをやめてその場に寝そべってそのまま眠ってしまった。
目覚めた時に男は体に異変が起きているのに気づいた。
体中から力が湧き出るような感覚。
拳を強く握りしめて地面に振り下ろした。
大きな音と共に地面が揺れて壁にひびが入る。
今度はひびが入った壁に拳を撃った。
岩が飛び散り土が舞う。
どうなるなんて知ったこっちゃない。
拳を撃つたび、今まであった息苦しさが消えていく。
それで充分だ。
暗闇の中、また砕ける音が鳴り響く。
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