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繰り返される色恋 『輪舞』(1950)の娯楽性について
オーストリアの作家、アルトゥール・シュニッツラー(1862-1931)による戯曲『輪舞』(1900)は、当時の性道徳から大きく逸脱した内容が、上演をめぐって論争が巻き起こったという逸話と共に記憶されている。しかし『輪舞』には、道徳を過激に挑発するという攻撃性よりも、そうした覇権的な規範を茶化す笑いの要素の方が目立つ。
この戯曲の最大の特徴は、二人の男女の性愛を、一人ずつ人物を交代させながら十
2022年に『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』を見返して思ったこと
この春に、大学のフリーペーパーサークルに寄稿した文章は、ロメロによる終末的世界をパンデミックと戦争の現代に結びつけて自己満足的ペシミズムに溢れた何とも気持ちの悪い文章であった。それからも世界は目まぐるしい速度で地獄に突入し、それに追いつけないままに就活やら引退やらが自分の生活に浸入した。あらゆる言説は、インターネット上に公開された瞬間に、潜在的差別意識に裏付けされたネットミームに晒されることを余儀
もっとみる私的領域にとどまる暴力の地獄ー『ブラック・フォン』
1960年代に興隆した第二波フェミニズム運動における代表的なスローガンの一つに「個人的なことは、政治的なこと(The Personal is political)」がある。これは、女性が私的領域で体験する個人的経験もまた公的領域と同様に重要であると示すスローガンであり、家族や恋愛などの私的人間関係における問題(家庭内暴力、家父長制など)も社会構造の中と密接に関連すると主張する。「個人的なもの」を取
もっとみる仮面を脱いだスター:トム・クルーズ
伝説のパイロットを35年ぶりに演じたトム・クルーズは、映画ファンからの熱狂的な支持を集めている。自らの身体を映画制作に注ぎ込む彼の姿勢の結晶としての『トップガン マーヴェリック』(2020)は、新型コロナウイルス感染拡大による営業停止を克服した劇場にとってこれ以上ないほど「映画館で映画を観る喜び」を体現する作品となった。映画ファンは、時代遅れの曲芸パイロットと生身のアクションを追求する俳優を同一視
もっとみる世界のノイズに開かれること 『カモン・カモン』
20世紀初頭、リュミエール兄弟による数十秒ほどの映像を見た観客達は歓声を上げたそうだ。それは、スクリーンに映る列車を見て「本当に轢かれてしまう」と恐怖したみたいな単純な話ではない。当時の人々は、「赤ん坊」なり「船」なり「列車」なりわかりやすいモチーフではなく、むしろその背後にある「風に揺れる草」「寄せては返す波」など、他愛もなく画面にとってただのノイズでしかない対象に歓喜したのだ。つまり、自分の
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